声優という生き方…中尾隆聖著

レビュー

4
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声優という生き方

『声優という生き方』

著者
中尾隆聖 [著]
出版社
イースト・プレス
ISBN
9784781680583
発売日
2019/05/10
価格
907円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

声優という生き方…中尾隆聖著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

人生はアンサンブル

 日本のアニメは海外でも大人気だ。日本の声優にあこがれる外国人も多い。国際声優コンテスト「声優魂」は、歌もセリフも日本語で行われるが、中国だけで数万人単位のエントリーがある。「人は好きで夢中になれるとすごいパワーを発揮するものだと改めて感じます」と語るのは、本書の著者、中尾隆聖氏だ。

 氏はキャリア60年以上の声優界のレジェンドで、「声優」という分野を確立した立役者の一人だが、謙虚で、今も若々しい。声優になるノウハウや売れっ子になる秘訣(ひけつ)については「たいへん恐縮ですが、私が教えてほしいくらいです」。5歳でラジオドラマ『フクちゃん』に出演して以来、『大魔王シャザーン』のチャック、『それいけ!アンパンマン』の「ばいきんまん」、『ドラゴンボールZ』のフリーザ、その他、声や顔見せでの出演作は数知れず。歌手やバンドもやった。新宿二丁目に店を開き人間観察の勉強を積んだこともある。演じることが大好きで、夢中で役者を続けてきた。そんな氏が語る人生の経験談や声優仲間の横顔は面白い。

 氏は言う。「私たち役者は事務所に所属していても、一人ひとりの『看板』をもっていなければいけない」「うまくやろうとするな」「オーディションは落ちて当たり前(キャスティングはアンサンブルで、似た声質の人は選ばれない)」「役者はみんなピースをもって現場や稽古場にやってくる」。ジグソーパズルのさまざまな形のピースが、芝居を通じてパチンとあう瞬間がある。最後のピースは「お客さんがもってくるピースだよ」。

 なるほど。新聞の書評欄もアンサンブルなのだから、自分が推薦した本が取り上げられなくても自信を失う必要はないのだ。読者の最後のピースがはまる瞬間こそが大事なのだ。

 私の個人的感想はさておき、本書は、声優や芝居は自分と無縁だと思っている人にも、人生を生きる勇気とヒントを与えてくれる良書だ。

 ◇なかお・りゅうせい=声優。出演作に「タッチ」(西村勇役)、「にこにこ、ぷん」(ぽろり役)などがある。

読売新聞
2019年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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