『ドゥ・ゴール』
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現代の日本人に得るところ多し戦後混迷期「仏大統領」の伝記
[レビュアー] 板谷敏彦(作家)
フランスは我が国とは歴史的にも深い関係を持つ馴染み深い国である。しかしよくわからない謎も多い。
先ずは隣国ドイツとの関係である。普仏戦争では首都パリを包囲され、プロイセンを筆頭とするドイツ諸邦はベルサイユ宮殿でドイツ建国を宣言した。その後の第一次世界大戦ではまたもドイツに攻め込まれ占領地域は酷い目にあった。さらに第二次世界大戦ではパリを無抵抗で開放し、ヴィシー政権というナチス傀儡の政権がフランスを統治した。恨み骨髄に徹すである。しかるに現在、何故フランスはドイツとかくも蜜月を保っているのか?
また先の大戦では戦勝国か敗戦国かわからないような状況から、フランスはいかにして国連常任理事国という戦後世界の指導的地位に立てたのか?
実はこうした謎を解く鍵がこの本に描かれた戦後混迷期の大統領ドゥ・ゴールその人なのである。
第二次世界大戦が始まった時、ドゥ・ゴールはまだ将軍にもなっていなかった。ドイツ軍の快進撃の前に、フランスの政治家や軍首脳は先の大戦のドイツとの戦いであまりに多くの戦死者を出したことを憂慮してナチスとの停戦を図った。
ドゥ・ゴールはここで踏み止まった。傀儡のヴィシー政権が成立する状況下、ロンドンで、あるいは植民地のアルジェリアで、当初はローズベルトやチャーチルなど連合国に無視されながらも、最後までフランスの旗を降ろさなかったのである。
ドゥ・ゴールには、かの国の高官には珍しく女性問題の醜聞が無い。引退の際の潔さ、俗物的な名誉を忌避する生き方は魅力的だ。しかし、そのためにパリの空港に名を残し来仏する多くの人の口に上るのは皮肉でもあり愉快でもある。
この本は訳本ではない。この分野では盤石の定評がある著者が書き下ろすドゥ・ゴールの伝記。現代を生きる日本人が得られるものは多い。