絵本作家がイヤラシイこと考えちゃダメですか? 大ベストセラー絵本作家ヨシタケさんが語る「大人の本音」

インタビュー

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思わず考えちゃう

『思わず考えちゃう』

著者
ヨシタケ シンスケ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103524519
発売日
2019/03/29

書籍情報:版元ドットコム

絵本作家がイヤラシイこと考えちゃダメですか? 大ベストセラー絵本作家ヨシタケさんが語る「大人の本音」

[文] 新潮社


ヨシタケシンスケさんの新刊『思わず考えちゃう』より

 2013年に出版した『りんごかもしれない』は絵本デビュー作でありながらMOE絵本屋さん大賞第1位、産経児童出版文化賞美術賞、『もうぬげない』でボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞、『このあとどうしちゃおう』で新風賞に輝いた絵本作家のヨシタケシンスケさん。日常のヒトコマを斬新な発想で切り取った作風に、今年4月にはNewsWeek誌が特集する「世界が尊敬する日本人100人」にも選出されている。
 今年3月、そのヨシタケシンスケさんが出版した『思わず考えちゃう』は、自身初のエッセイ集だ。あくまで大人向けの書籍であるにもかかわらず、発売から3ヶ月で10万部を突破しそうな勢いだ。日頃から持ち歩いている小さなスケジュール帳に書かれた「思わずイラストに残したくなった小さな出来事」を、3センチ四方くらいのイラストとともに紹介している。クスッと笑えるほんわかイラストも多いが、後ろ向きだったりブラックな一面も見え隠れする。
 最新絵本『ころべばいいのに』では、「きらいな人がいてもいいんじゃない?」をテーマに「子どもの本音」を描いているヨシタケさん。今回はそんなヨシタケさんに、絵本の著者インタビューでは語りきれない「大人の本音」を聞いた。

 ***

本当は後ろ向きなイヤラシイ人なのねと知ってほしい

 僕ってものすごく凹みやすい人間なんです。どうやったら人に怒られずに生きていけるかだけを考えて生きているといっても過言ではありません。だから、日々少しでも楽しそうなことを見つけて、自分を楽しませるしかない。クスッと笑えるイラストでも描かないと、ずーっと凹み続けることになっちゃうんですよね。僕の場合はストレス発散が仕事になったレアケースだと思います。なので「絵本作家」という肩書きに対する申し訳なさはずっと感じています。
 海外では子ども向けの絵本を出す一方で、キワドイ、イヤラシイ作品も描く絵本作家っていうのが普通にいらっしゃいますが、日本の絵本作家にはなぜか聖人君子なイメージがあるようです。絵本も書くけど、黒かったり、イヤラシイことも言う人っていうほうが自分は楽かな。
 他人には、あんな絵本書いてるけど、本当はイヤラシイ人なのねとちゃんと知ってほしい。さぞかし立派なお父さんなんでしょうねぇと思われるのが心苦しくて。『ころべばいいのに』にも通じるところがありますが、心の中で人の不幸を願ってることもよくありますっていうことも伝えたかった。
「ヨシタケシンスケはそんなに悪人でもないけど、そんなにいい人でもないんですよー。そんなにいい人でもないのに、絵本の著者インタビューだと、いいところばかりをすくいとってくれるのでメディアの力でいい人みたいになっちゃうんですよー」と声を大にして言いたいんです! むしろ罪悪感を使って絵本を描いてるといいますか。秘密でこっそりイヤラシイことを考えているからこそ、人前に出るときはちゃんとしたことしようと義務感を持ってるわけです。そういうことが上手くなるのが大人になるってことで、そういう感覚も大事だと思うんですよね。

僕、毎日イヤラシイことばっかり考えてます!

 僕には趣味って言えるものがないんですよね。身近で起きているすべてを仕事にむすびつけようとしてしまう。その集大成が『思わず考えちゃう』なわけですが、そんな僕が仕事のことをまったく考えなくなれる唯一の瞬間が、ネットでぼーっとしながらイヤラシイ画像を見ている時だけなんです。僕はイヤラシイことでしかぼーっとできない(笑)。結局、仕事のこととイヤラシイことばっかり考えてるってことですかね。だから、絵本のような「お題」がない日常を描くと、ネガティブに走ったり、アダルトになって当然。いろんなインタビューでも同じこと言ってるんですけど、みなさん絵本作家に後ろ向き発言とか煩悩はねぇってことで自主規制してくださってるんでしょうか。どこも書いてくれないんです。


生物として本能の危機を感じたときに描いたイラスト

 でも僕は、むしろ書いてほしいんですよ。新聞や雑誌のインタビューだったりすると、お子さんも読むこと前提なので、「僕、毎日イヤラシイことばっかり考えてます!」とは言えませんけど、WEBの記事だったら絵本を読むようなお子さんの目には触れないので、おそらく大丈夫です。僕の中では、自分自身のイヤラシイ方向をどう出していくかが以前からの課題だったんです。なんですが去年の年末あたりからその趣味にも情熱を注げなくなってきちゃったんです! いままではわー見たいって思っていたのに、そこまでの情熱を傾けられなくなってきていて、生物として本能の危機を感じてます……。それを感じたときに描いたイラストがこれです。

 で、次に何に情熱を注げるかって考えると、美味しいものが食べたいなぁって。性の力が衰えると、人って食欲に行くんですねー、やっぱり。年取ったんですねー。前はあんなにイヤラシイものにドキドキしてたのに、その情熱がなくなるなんてね。まぁ知るかって話ですよね(笑)。
 でも、こんな気持ちがあることを知ったので、いつか『せっかく誰も見てないのに』っていう絵本を描こうかと思ってます。

新潮社
2019年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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