映像化されても「超ユニーク」英国モダンファンタジー3選

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映像化されても“超ユニーク”英国モダンファンタジーの奇才

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 海外ではものすごい人気なのに、日本ではなぜか全然知られていない――そんな作家の筆頭が、英国モダンファンタジーの奇才、ニール・ゲイマン。翻訳されてないわけじゃなく、主要作はほとんど日本で出版され、評判も高いのに、これが売れない。単行本は次々品切になり、文庫化されないままネットで一万円近い高値がつく――そんな悲惨な状況に突如変化が訪れたのは今年になってから。

 1月に出た単行本『物語北欧神話』が起爆剤になったのか、『墓場の少年』、『グッド・オーメンズ』とたてつづけに文庫化。6月には、とうとう短編集『壊れやすいもの』まで文庫で読めるようになった(3点とも角川文庫)。収録の全31編は、ゲイマンの超絶技巧のショーケース。04年のヒューゴー賞に輝くホームズもの「翠色(エメラルド)の習作」を初めとするパスティーシュ群や『ナルニア国物語』の暗部に光を当てた「スーザンの問題」もすばらしいが、中でも必読は、パンク黎明期のロンドン南部を舞台にした非モテ思春期SF「パーティで女の子に話しかけるには」。一昨年、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督、エル・ファニング主演で映画化。パンク成分とSF成分を大幅に増強、すごく70年代っぽい、奇天烈な映像が楽しめる。

 映像化と言えば、前出の『グッド・オーメンズ』(上・下巻)は、ゲイマンが先輩格のユーモア作家テリー・プラチェットと合作した(小説家としての)デビュー長編だが、こちらはアマゾンとBBCの共同制作で全6話のドラマになっている。ホラー映画の名作『オーメン』のパロディ風に幕を開け、天使と悪魔の掛け合いで話が進む、爆笑ハルマゲドンファンタジーだ。

 映像化つながりでもう一作、ケン・リュウのハヤカワ文庫版短編集『もののあはれ』に収められている妖怪退治ファンタジーの傑作「良い狩りを」が、1話完結のショート・アニメ・シリーズ『ラブ、デス&ロボット』の中でアニメ化されている(邦題「グッド・ハンティング」)。こちらは17分の短編。Netflixで見られるので、原作ファンはぜひ。

新潮社 週刊新潮
2019年7月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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