『科学技術の現代史』
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「理系の史書」は考えるヒント満載
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
『科学技術の現代史』なるタイトルだけ見た時点では、この本を見くびってました。科学と技術は別物なのに、それを一語で語るようなヤツやブツは信用しないことにしてるんでね。
が、著者略歴をチェックすれば佐藤靖はバリバリの科学史家だし、中身を読み始めれば序章の頭でちゃんと、「科学技術」が戦時中のニッポンで生まれた和製・官製ガラパゴス語であることが紹介されてて得心&改心。あとは一気に読了です。
題に現代史とあるとおり、カバーされてるのは第二次大戦以降の80年ほど。この間の科学・技術革命の原動力は、アイゼンハワーが指摘したとおり米国の軍産複合体(+研究機関)だったわけですが、その主軸が冷戦期までの軍=国家から冷戦後には産=企業へと移り変わり……というあたりが第一の読みどころなら、“ポスト冷戦後”になると米国一強が弱まり、ロシアや中国発の流れとして、また国家の存在感が増してきてるという指摘が、もうひとつのハイライトかと。
研究者が自らペンを執った専門書系新書だけに、盛り込まれているのは確たる史実が中心。AIでアナタの仕事はどうなるのか、ゲノム医療でアナタの寿命はどうなるのか等々、身近な疑問への手軽な解答を期待すると肩透かしを喰らいます。が、そんな身の丈の未来から、この国を含む世界の軍事外交経済の先行きまで、自分の頭で考えてみたいアナタにとっては格好のヒント集。文系も読むべき理系の史書です。