学歴・年収格差広がる!? 「電通」「Google」じゃないとモテない LGBTの聖地となった「新宿二丁目」の今 伏見憲明×中村うさぎ×エスムラルダ公開鼎談(3)

対談・鼎談

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新宿二丁目

『新宿二丁目』

著者
伏見 憲明 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784106108181
発売日
2019/06/17
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

新潮新書『新宿二丁目』刊行記念公開鼎談  伏見憲明(著者)×中村うさぎ(作家)×エスムラルダ(八方不美人)

[文] 新潮社


紀伊國屋書店新宿本店にて行われた鼎談。左からエスムラルダ氏、伏見憲明氏、中村うさぎ氏

作家・伏見憲明氏(新宿二丁目でゲイバー「A Day In The Life 」を経営)の『新宿二丁目』刊行記念として、作家の中村うさぎ氏、ディーバユニット「八方不美人」のエスムラルダ氏による豪華鼎談の第三弾をお届けする。今やLGBTの聖地となった「二丁目」は、どんな人々が集まっているのか。この街を知り尽くした三人だからこそ語れる「新宿二丁目」の今昔。

女が二丁目に来る時


作家の中村うさぎ氏

伏見憲明(以下、伏見) うさぎさんは、そもそもなんで二丁目に来始めたの?

中村うさぎ(以下、中村) 最初はね、麻布に住んでた頃で、あの頃はシャネルとかを並行輸入してるセレクトショップを、それこそ回遊魚のように毎日チェックしてたの。そこで知り合った暇なマダムに、夜はどこで遊んでるの? って訊かれて、当時は六本木のゲイバー、観光客向けで高い店だったんだけど、そういうとこで遊んでるって話したら「あんた、そんなとこでムダな高い金使ってんじゃないわよ! 二丁目行くわよ!」って連れてこられたのが最初。今はもうないんだけど、ルミエールの向かいにある路地の店に初めて行って、そこで今の夫と出会ったの。

伏見 最初の店で。

中村 そう。そこが楽しかったんで、そこからは毎晩、ローラー作戦って言って、何軒もはしごして、わーっと行って、飲んで、サヨナラーって去るのを繰り返して。道端に停めてある自転車、蹴っ飛ばして、警察に怒られたりね。

伏見 たちが悪い(笑)。当時の二丁目は、六本木と比べてどうでした?

中村 暗くて汚くてお歯黒どぶに来たって感じでした(笑)。その頃の六本木のキラキラした雰囲気から比べるとね。

伏見 歌舞伎町のホストクラブに行ってたのは?

中村 二丁目で1~2年遊ぶうちに、飽きたり、出入り禁止になったりして(笑)。河岸変えようってことで、歌舞伎町に行ってホストクラブに行き出したので、二丁目よりも後ですね。

伏見 ゲイの友達はいました?

中村 初めて二丁目に来た時はまだいなかった。今思えば、麻布のセレクトショップの店員に、女物のシャネルのジャケット着て、ブローチつけて、仕草もそうなのに「ノンケなんです~」と言ってる人がいたけど。二丁目で遊ぶうちにゲイの友人も沢山できて、歌舞伎町に行く頃には、夫とも結婚してましたけどね。

伏見 きっと初めからゲイとの相性はよかったんでしょう。

中村 その頃、ギャグ系のライトノベルを書いてたんですが、そのギャグセンスがゲイとは共通していました。普通だと、毒舌だねとか、怖いと言われて敬遠される。だから、毒舌が許される世界が、純粋に楽しかったんです。

伏見 当時はまだ毒舌が許されたからね。でも今の若い客なんて、店に来たかわいい子には「かわいい!」ってちやほやしないと……冗談でも「ブスね、あんた」なんて言おうものなら。

エスムラルダ(以下、エスム) 一瞬で店から消える(笑)。

伏見 それでネットに悪口書かれる(笑)。

中村 それって、ゲイカルチャーが、差別されてたことに対する反抗心から成り立ってたことと繋がってるのかな。社会に認知されることによって、そういう文化的下地がなくなってきたのかも。

伏見 今は学歴、収入とかの格差も、気にするゲイは気にしますからね。二丁目でそれを気にしてどうすんの! と思いますけど。

中村 カウンターで並んで「同じホモよね~」ってそれで通じ合ってたのに。

伏見 今はなかなかね。それこそ電通です! Googleです! とかじゃないと、もてないのよ。

中村 えらく具体的な(笑)。

伏見 エスムさんだって、一橋大学出られて、エリートで、なのになんでこんな人生をって。

エスム 全部ドブに捨ててます~(笑)。

伏見 しかも女装なんて、一層もてないのに。そういえば、なんで女装するようになったんですか?

エスム 最初はイベントの余興でやったら、面白くなっちゃったんですね。

伏見 でも二丁目で「もて」って重要でしょう。それは気にならなかった?


ディーバユニット「八方不美人」のエスムラルダ氏

エスム そもそも、もてていないので、女装しようとしまいとあまり関係ないです!(笑)。むしろ、女装していたおかげでたくさんの人と知り合えたので、あったかどうかわからないような「もて」と引き替えにして、ほんと良かったなと(笑)。

伏見 確かに! エスムは同世代のおじさま方よりも、若いイケメンの知り合い、多い! じゃあ、女装したことで個人的に「いいこと」もあった?

エスム それは何にもない(キッパリ)! ある人にはあるんでしょうけどね……。

伏見 ないのか(笑)。でも二丁目では有名人ですし、そういうのは楽しいのかな。

エスム 50歳近くになって、及川眠子先生と中崎英也先生の曲でCD出せることになったのも、女装していたおかげですしね。ありがたいです。

伏見 40代越える頃って、人生の可能性がなくなるというか、限界も見えてくるし、容貌も落ちてくるし、自己肯定感を得られなくなっていくじゃないですか。

中村 その落ちてくるのがないよね。

エスム そもそも0というか、マイナス寄りだから。

中村 持たざるものは強い。

伏見 若い頃、ブイブイ言わせてたかわいい子らよりも、今は私たちの方が二丁目で「フッフッフッ」と。

エスム あと、二丁目では、心が鍛えられましたね。見た目が優れていると、若い頃って下駄履かせて貰えるじゃないですか。

伏見 イケメンはちやほやされるから、自己肯定感が得られやすい。

エスム それに、もてる子なら、悩みを彼氏に相談したり、寂しさを恋愛やセックスで埋めたりすることが容易にできるけど、私は、そこを全部自分で処理してきましたから(笑)。時には友だちの力を借りつつも、基本的には一人で自分の心と向き合い、自分で心を立て直していくしかなくて。いやあ、鍛えられた(笑)。

伏見 女の人も、二丁目で心を鍛えられたりしますか?

中村 鍛えられる人と、そうじゃない人がいるでしょうね。私なんかは、物の見方から考え方、全部おかまから盗んだと言ってもいいけど、女の人でも全然ダメな人はいますよね。


新宿二丁目でゲイバー「A Day In The Life 」を経営する伏見憲明氏

伏見 いる。店に入って3分で泣く女客とかね。それも初めて来て(笑)。いや、泣いてもいいんですよ、でもそれはきちんと話してからであって、いきなり泣かれてもさ。それで「何しにきたの、あんた。ここはノンケがあたいを喜ばせるところであって、あんたを喜ばせるとこじゃないのよ」ってやると、また泣いたりして……。あと意外と多いのが、ゲイを狙ってる肉食女子。

中村 いる。勘違いしてるんでしょうね。

伏見 ゲイですら私に振り向いた、って言いたいがための、ファイター。間違った闘志を燃やしてる(笑)。

中村 だから美人だったりするのよね。女としての自己肯定感ある人が、さらなる珍獣を求めて来る。これだけ男にチヤホヤされてる私が来るんだから……って。

エスム ないない。

中村 それとは別に、性的な目で自分が見られないことに安堵するタイプも来る。二丁目に来る女性はこの二つにハッキリと分かれるでしょうね。

伏見 あと最近、何とかセクシュアル、何とかジェンダーって、細分化されてるタイプが増えてきてるでしょう。そういうマイノリティも少なくないんですが、そこに居場所のない偽装性的マイノリティも混ざっている!

エスム いますね。ノンケならノンケで、別にいいのに。

中村 二丁目って、何でも受け入れられる場所なんですから。つまりゲイですらなくて、でも社会にも家にも居場所がない、そんな人も受け入れてしまえる街なんですよね。

伏見 今、セクシュアルマイノリティの方が、かえって生きやすくなってきているのかもしれない。ある種の共同性(コミュニティ)がありますからね。家族とか以外に帰属先がない人は、茫漠たる社会の中に1人きりで立っている気がするんでしょう。

エスム そうなると、どこかに所属したいという思いが強くなるんでしょうね。

伏見 セクシュアリティについては自己申告ですから。そういえば店にいらした女性の方だったんですけど「レズビアン? バイセクシャル?」とスタッフが尋ねたら「いえ、私は結婚出来ないんです」って名乗られて。まさかの独身マイノリティ宣言(笑)。
 LGBTじゃない人でも、大歓迎なんですけどね。うちの店は結構ノンケのお客様も多くて、じゃあ、男女のお見合いでも企画して、生産性でも高めようかなと思ってお見合いクラブも作っていたりします。

エスム 生産性(笑)。成果はいかがでした?

伏見 成果はない(キッパリ)。でも、医者合コンというのもやったりしてます。イケメン独身の医者を2人準備して、女子を10人ぐらい集めて、その女子の肉食感を楽しむという。

エスム ふ~じ、サ・ファ・リ・パーク♪

伏見 ただではノンケを楽しませない、こっちにもそれぐらい楽しみがないと(笑)。

中村 でも、最近はゲイもセクハラしにくくなったよね。昔はノンケが二丁目に遊びに来ると、「あら、いい男ね」って触られるのは当たり前だったのに、最近は「それ、セクハラですよ」って言われちゃうでしょ。でも普通にウェイターの股間、触ったりしてたよね。

伏見 あった、あった。

中村 それがなくなった。それこそが平等なのよ。

伏見 誤解を恐れずに言えば、平等って面白くない(笑)。誰にでも開かれてる世界って、誰にも関心持たれなくなるってことだから。ゲイバーの客にしても、「女子は入れてくれない!」って怒ってた女性客が、実際に店内が女子ばっかだと、つまんなそうな顔をするんです。ゲイがいないんじゃあ、そこらのバーで飲んでるのと一緒じゃんって。

中村 平等になって、つまらなくなる。

伏見 じゃあ「うちの店は女子はダメ」って差別した方がいいんですか? と(笑)。

エスム 行き過ぎはね、何でもよくないですね。

伏見 この間、あるレズビアンバーが、パーティにドレスコードを設けたんですが、生まれつきの女体を持っている女性だけというドレスコードだったので、大炎上してました。多様性って本当に難しいとつくづく思います。

中村 あたしもダメじゃん! 生まれつきの女子だけど、あとから偽乳、足したから!

伏見 ……ダメなんじゃない(笑)?

(了)

【『新宿二丁目』刊行にあたり、多くの方々に取材等でお世話になりましたこと、心より御礼申し上げます。また今回、取材しなかった関係者の皆さまにはお詫び申し上げます。今後も出来うる限り取材、資料収集を続けていく所存ですので、ご協力頂けましたら幸いです。著者記】

新潮社
2019年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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