【自著を語る】幸せに生きるコツ――坂東眞理子『70歳のたしなみ』

レビュー

7
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70歳のたしなみ

『70歳のたしなみ』

著者
坂東 眞理子 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093886918
発売日
2019/04/03
価格
1,210円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

幸せに生きるコツ

[レビュアー] 坂東眞理子(昭和女子大学総長)

300万部を超える大ベストセラー『女性の品格』。著者の坂東眞理子さんが「書き始めてから二年と私としてはかなり長い時間をかけて完成した本である」と語るのは今年の4月に発売された『70歳のたしなみ』。自著についてお話を伺いました。

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 この『70歳のたしなみ』は書き始めてから二年と私としてはかなり長い時間をかけて完成した本である。

 当初は「70歳、遊んでいる場合か!」と叱咤激励調で書くつもりだった。人生は百年時代、寿命が延び体力のある高齢者がこれだけ増えているというのに、終活だの断捨離だの墓じまいだの「残された人に迷惑をかけないで世を去る」準備をすることばかりに関心を向けるのはいかがなものか。残り時間がこれだけ長いのに六十代や七十代で終活するには少し早すぎる。そうかといって旅行、趣味、グルメ、お出かけなど遊ぶことばっかりなのももったいない。もっと仕事でもボランティアでもやるべきことがいっぱいあるだろう。というのが私の思いだった。これだけ高齢化と人口減少がすすむ日本で高齢者が旅行と散歩とサプリメントだけにうつつを抜かしていいのか、そうせざるを得ない社会に義憤を感じていた。

 いくら働きたくても経験と知識と技術が生きる仕事はそれほどない。若いころと比べれば新しい言葉もよく覚えられない。思うように体が動かない、あそこが痛い、ここが悪いというところも増える。若者は頼りない癖に高齢者に対して敬意も払わず、マナーもわきまえない。嫁や孫など若い世代とは家族でも考え方も生活習慣も違う。自然にしていたら高齢者はどんどん不機嫌になっていってしまう。

 多くの高齢者向けの書籍は若者が悪い、社会が悪い、政治が悪い、制度が悪い、上司が悪い、夫(妻)が悪いと現状を批判し、分析して終わる。私は現状批判をいくら言ってもしょうがない、と考え少しでもできることから良いほうへ変えていかなければならないと考えてきた。ちょうど女性に対する差別に怒り、その理不尽さを嘆くより、個人としての女性が誇り高く生きることを目指そうと鼓舞する『女性の品格』を書いたように。

 社会や政治を変えるのはいかに大変な仕事かよく知っている。他人を変えるのは不可能に近い。しかし自分の考え方を変え、行動を変えるのは努力が必要だが可能である。ここは社会が悪い、若いものがナットランと怒り批判するよりも高齢者自身がどうしたら充実した一日一日を過ごせるか考えたほうが良いのではないか。それにはまず機嫌よく過ごしていくことである。機嫌よくしているほうが本人も周りも幸福になる。「ありのまま」「無理しないで」自然にふるまっていては、不機嫌になり、見た目も悪くなり、周りに不幸をまき散らす。ありのまま自然にしていて尊敬されるのは極めてまれな聖人君子だけである。私たち凡人は意識して上機嫌にふるまい、意識しておしゃれをし、意識して楽観的に考えるようにしなければならないのだ。それが平和な安定した社会で長生きさせてもらった高齢者のたしなみである。

 過ぎたつらい経験を思い悩み人を恨んでいるより、あの苦労があるから自分は成長したのだ、あの苦労があるから今日の自分があるのだと肯定したほうが良い。ヒトと比べて現在の自分を否定するほど寂しいことはない。たしなみある高齢者は厳しい現実を受け入れ、それでもあえて上機嫌に過ごす。上機嫌こそ高齢者のたしなみである。そのように楽観的に考える具体的なアドバイスをたっぷり盛り込んだのがこの本の特徴である。

 自分はそう信じて書いたが、読者から「歳をとったら無理しないで気楽に過ごしたい」という声がかえってくるかといささか恐れていた。しかし「迷いが吹っ切れました。よいアドバイスありがとうございました」「心が明るくなりました」などといってくださる方が多く、大いに励まされた。また六十九歳以下の方は手に取ってくださらないかと思っていたのだが意外と五十代、六十代の方たちからも高齢期に備えて大いに参考になった、親にプレゼントしたいという声をいただいている。多くの方の充実した高齢期を生きる参考になれば幸いである。

小学館 本の窓
2019年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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