<東北の本棚>面目躍如 自由な表現者
[レビュアー] 河北新報
フォークシンガーで詩人、画家の著者(69)=秋田県三種町出身=が、過去に書いた著作の中からエッセーと詩を採録し、一部書き下ろした文庫オリジナル。生い立ち、幅広い文化人との交流録、近況を飾らぬ言葉でつづり、人におもねることのない、自由な表現者の姿が浮かび上がる。
著者は中学時代に中原中也の詩「骨」と出会い、衝撃を受けた。<ホラホラ、これが僕の骨だ、>。自分の内面へ目を向けるきっかけとなり、詩を書き始めたことが歌の出発点になったと振り返る。
自己を形成したもう一つの柱は、能代工高バスケットボール部時代の恩師加藤広志監督の存在だった。自分をとことん律して生きる挑戦者の姿勢と「もっとプライドを持て」という教えは、集団就職で上京した後、日雇いの土木作業員になり自暴自棄になっていたときも、常に激励のように頭の片隅にあったという。
仙台市出身のコメディアンたこ八郎や作家中上健次と飲み歩いたこと、30代後半に絵を描き始めて洲之内徹にインタビューされたエピソードなどにも紙幅を割く。
50歳を過ぎてから、ヨーロッパや台湾の海外公演に何度も出向くようになった。土地柄や国民性の違いはあれど、出たとこ勝負で歌う「一人盆踊り」をやるだけ-という力みのなさが潔い。
筑摩書房03(5687)2601=886円。