『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』
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【聞きたい。】白石あづささん 『佐々井秀嶺、インドに笑う』
[レビュアー] 産経新聞社
■民に寄り添う日常に迫る
大半がヒンズー教徒であるインドで、カースト(身分制度)の外に置かれ差別されてきた人々を中心に、仏教に改宗する動きが起きているという。半世紀ほど前は数十万人しかいなかった仏教徒が今、1億5千万人を超えるのだとか。インド仏教再興に寄与し、最高指導者として率いているのが日本生まれの僧、佐々井秀嶺(しゅうれい)さん(83)だ。
足かけ5年の取材で、その破天荒な生き方と飾らない人柄、民衆のため身を賭して闘う日々に迫った。硬質なノンフィクションではなく、書きぶりはやわらか。「宗教にもインド社会にも疎い私が、佐々井さんに素直な疑問をぶつけて書いたものです」。2人のコミカルな会話を入り口に、摩訶不思議(まかふしぎ)な冒険譚(たん)が展開する。
佐々井さんの人生は苛烈だ。自殺未遂を繰り返した青年期を経て僧になるも、留学先のタイで女性問題から窮地に。不思議な縁に導かれ、インドにやってきたのは1967年。半世紀もの奮闘により、人々の崇敬を集める存在になった。
「今もボロボロの部屋で暮らし、民衆のよろず相談をひたすら受けたり、なぜか孫の手で悪魔払い(?)をしたり」。ツッコミどころ満載だが、現地で密着取材する中で秘密警察や命を狙ってくる過激派の男も目撃した。「『(訪問先で)出されたものを口にするな』『どこから来たかは絶対に言うな』と佐々井さんに厳命されると恐怖もあった。でも『オレは腹をくくっておる。お前もくくれ!』といわれると、しようがないやって…」と笑う。
佐々井さんの何が人々を惹(ひ)きつけるのか。「自分のことを全部捨てて民衆に尽くし、目の前の人のために祈るところでしょうか。阿修羅の形相で強盗団を怯(おび)えさせたかと思えば、慈悲深い菩薩(ぼさつ)のような表情を見せる。子供と接するときは良寛さんのよう。そんな佐々井さんの幅広い顔と人間的魅力を、より多くの方に知ってもらえたら」(文芸春秋・1750円+税)
黒沢綾子
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【プロフィル】白石あづさ
しらいし・あづさ フリーライター。日本大学芸術学部卒。地域紙記者を経て約3年の世界放浪の後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書に『世界のへんな肉』(新潮文庫)など。