国際刑事裁判の政治学…下谷内奈緒著

レビュー

3
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国際刑事裁判の政治学

『国際刑事裁判の政治学』

著者
下谷内奈緒 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000229654
発売日
2019/05/31
価格
5,832円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

国際刑事裁判の政治学…下谷内奈緒著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 国際刑事裁判は、冷戦終焉(しゅうえん)後に飛躍的な発展を遂げた、華やかな分野だ。過去四半世紀の間に、様々な新しい国際刑事裁判所が生まれ、数多くの戦争犯罪人に対する訴追が行われてきた。現在では、恒常機関である国際刑事裁判所(ICC)が、世界の研究者の注目を集めている。

 だが、本書の読者は、国際刑事裁判が、混沌(こんとん)とした国際政治の荒波の中で翻弄(ほんろう)される運命にあることを、あらためて思い知ることになる。

 ICCは国家元首に対する訴追も行ってきたが、まだ逮捕できていない。取り下げてしまった場合もある。もともとICCを強く支援していたアフリカ諸国は、近年では激しいICC批判を行ってきている。果たして国際刑事裁判は、正義や平和に、役立っているのか。悩ましい問いだ。

 本書は、こうした問題の背景に、「平和」と「正義」の確執、「強制力」と「正統性」のジレンマがあることを描き出す。国際刑事裁判をめぐる冷戦終焉後世界の動向を、わかりやすくスケッチする。学術書ではあるが、関心を持つ読者にとっては、信頼できるガイドブックとなるだろう。(岩波書店、5400円)

読売新聞
2019年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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