1793…ニクラス・ナット・オ・ダーグ著

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1793

『1793』

著者
ニクラス・ナット・オ・ダーグ [著]/ヘレンハルメ 美穂 [訳]
出版社
小学館
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784093567190
発売日
2019/06/05
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

1793…ニクラス・ナット・オ・ダーグ著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 北欧ミステリーがすごい。今年刊行されたルースルンド&ヘルストレム『地下道の少女』は、厳冬のストックホルムの地下を舞台にストリートチルドレン問題などを描いた力作で、福祉国家やEUについて考えさせられた。

 今度は、この水都を舞台にした歴史ミステリーだ。フランス革命の余波におびえる王国スウェーデン。反革命政策を推進したグスタフ三世が暗殺され、若きグスタフ四世が即位するも、摂政の叔父が実権を握る。度重なる戦争に疲弊し「国も街も破産寸前」で、腐敗、暴力、貧困のなか、欲求不満が鬱積(うっせき)し絶望感も漂う。「革命と裏切りへの恐怖」が伝染し、王の諜報(ちょうほう)員が各地にひそみ、秘密結社「慈悲深き者たち(エウメニデス)」に退廃した選良たちが集う。パリからは前国王の、次いで王妃マリー・アントワネット処刑のニュースが届き、人々が興奮している時世。

 貧民地区の南郊島にある湖の汚泥から、手足のない死体が発見された。「空洞と化した眼窩(がんか)」「歯が一本も」なく、金髪だけが残っている。死体を引き上げたのは、「引っ立て屋」という風紀取り締まり稼業では食えず、居酒屋の用心棒もするカルデル。戦争で片腕を失ったが喧嘩(けんか)にはめっぽう強い。そして明敏な探偵役のヴィンゲ。理想主義の法律家だったが、今は警視総監直属として、労咳(ろうがい)に苦しみ、ハンカチを赤く染めながら捜査に当たる。「人間のなりをした怪物」は、なぜかくも残酷な犯罪を? この暴力は、革命の混乱・興奮がもたらした暴力とも共振している。だが、いかに邪悪な時代にも、理性を失わず、人間の尊厳をかけがえのないものと考え行動する人が存在するのだ。

 暗いストックホルムの描写がとても美しい。昔日の都市の様相がしっかりと描かれ、「猫入江」、「処刑人の坂」、居酒屋「無一文」といった名称もイメージを喚起する。3部作の1巻で数十か国語に翻訳された。2巻が待ち遠しい。ヘレンハルメ美穂訳。

◇Niklas Natt och Dag=1979年、ストックホルム生まれ。雑誌編集長を経て、本書で小説家デビュー。

読売新聞
2019年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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