ひとりで暮らす、ひとりを支える…高橋絵里香著

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ひとりで暮らす、ひとりを支える

『ひとりで暮らす、ひとりを支える』

著者
髙橋絵里香 [著]
出版社
青土社
ISBN
9784791771615
発売日
2019/04/23
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ひとりで暮らす、ひとりを支える…高橋絵里香著

[レビュアー] 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 福祉先進国の北欧を見習おう。

 そんなお題目を、本書で人類学者がゆるやかに崩してくれる。

 フィンランド南西部の、とある自治体「群島町」での調査を民族誌にまとめた。その名の通り1万個以上の島々や岩礁からなるその町では、人々が水辺に家を建て、海を臨む。

 点在する離れ小島での独居には、書名のような手厚い支援がある。

 たとえば、蘇生措置拒否にサインし、自宅での死の覚悟を決めたとしても施設への入居が許される。24時間体制の緊急通報システムを通じて、オムツをつけた高齢者がトイレ介助を頼んでも咎(とが)められない。森の奥に佇(たたず)む屋敷でのひとり暮らしも、地域ぐるみでケアされる。

 高齢者のわがままにも見える状況を支えている以上、やはり、日本も北欧を目指そうと言いたくなる。

 しかし話は簡単ではない。著者は釘(くぎ)を刺す。制度は、その土地に根付いた要素とつながっているからだ。

 フィンランドの単身世帯率は41%にのぼる。58%のカップルが第一子出生時で結婚していない。そうした家族の平均がはっきりしない国ゆえに、「親族」の定義も幅広く、行政との協力のもとにケアを行う。

 認知症についても、フィンランドでは、ひとりひとりの記憶の問題と捉え、個人の治療を重視する。

 なるほど、日本でも認知症について地域住民の見守りが求められる。患者となった高齢者の徘徊(はいかい)を防ごうとする意図が感じられる。ただし、それは患者の行動に焦点を絞る対策にとどまる。

 かといって、著者は日本を声高に批判しない。調査や出産・育児を通して著者が得た確かな手ざわりが、安易な語りを抑え、理想と現実を見分ける視点を読み手に与える。

 老後に二千万円の貯蓄が必要か否か、という論争だけは日本でも盛んなものの、現場の実感に乏しい。

 土地に生きているひとりひとりの手ざわりから、福祉をめぐる、地に足のついた議論が始まる。

 ◇たかはし・えりか=1976年、東京生まれ。千葉大准教授。専門は文化人類学。著書に『老いを歩む人びと』など。

読売新聞
2019年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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