古舘伊知郎は怒りを「脳内実況中継」でコントロール。そのトーク術とは?

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古舘伊知郎は怒りを「脳内実況中継」でコントロール。そのトーク術とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

言葉は凝縮するほど、強くなる』(古舘 伊知郎 著、ワニブックス)の著者には、「トークのプロ」といったイメージがあります。

ところが実際には、しばしばスタッフから、話が長すぎることを指摘されてきたのだそうです。

もちろんそれは、著者の持ち味のひとつでもあるでしょう。しかしその一方、「相手に聞いていただくトーク」を前提とする必要があるということです。

つまりはペラペラしゃべってもいいけれど、あくまで「相手ファースト」であることが大前提だという考え方。

そのうえで、だらだらと話さず、相手とのコミュニケーションが成立したと感じたあたりで話をパッと引き上げ、渾身の一言にことばを凝縮できればベストだというのです。

一点突破の凝縮ワードは、人の心に刺さる。響く。 自分のことばかりダラダラしゃべるのは、もうやめだ!

そんなことは、読者の方は百も承知ですね。 でも、もっともっと相手の思いに寄り添い、自分の真意を渾身の一言に凝縮して伝えていくことならできると思っています。 (「はじめに 一点突破の『凝縮ワード』に思いを詰め込む会話術」より)

著者が「凝縮ワード」と呼んでいるそれは、果たしてどのようなものなのでしょうか?

CHAPTER 03「言いにくいことをスルッと伝える」のなかから、いくつかを抜き出してみたいと思います。

脳内実況中継で怒りを自己完結させる「アンガーマネジメント力」

ときにはパートナーと喧嘩になり、怒りを感じることもあるはず。では、そんなときはどう伝えればいいのでしょうか?

つい、「は? なにいってんの?」「自分だってそういうとこあるじゃん」というようなことばを投げかけてしまいがちかもしれません。

しかし、ちょっとしたひとことのつもりが相手の神経を逆なでし、日ごろの不平不満のぶつけ合いに発展することも考えられます。

そこで、「言い合いの応酬になってきたぞ」「負のサイクルに入りそうだぞ」と思ったら、即座に「脳内で実況中継」してみるといいのだそうです。たとえば、次のように。

「今、私はキレております。妻があんまりにも『なぜ、もっと早く帰れないの』『もっと、育児に参加してよ』と延々と文句を言うので、思わず『うるせぇ!』と怒鳴ってしまいました。なんとむごたらしいことでありましょうか。キレるという行為は、相手を傷つけるだけでなく、自分のことも傷つけます。どちらにもいいことが何もないのです……」(104ページより)

いわば自分の怒っている状況を、実況中継というかたちで俯瞰して見るということ。

実況中継は客観性がなければできないため、いったん立ち止まるきっかけになるというわけです。

それは、セルフ・アンガーマネジメントのようなもの。そこで、キレそうになる一歩手前で試してみるべきだといいます。そうすれば、冷静になるきっかけがつかめるかもしれないから。(94ページより)

ケンカする状況を招いたことに謝る

ケンカや言い合いは、自分も相手も正論だと思うことをぶつけ合っているだけ。そのため、いつまでたっても平行線になってしまうのです。

しかも言い合えば言い合うほど、自分も相手もなにを言っているのかわからなくなってきたりするものです。

つまり、ポイントはここ。謝るとしたら、そこを伝えればいいのです。

「自分でも何を言っているのか、分からなくなってきちゃった。ごめんなさい」 (105ページより)

言い合いになればなるほど、ことばに頼ろうとするもの。しかし、そんなときの言葉ほど、頼りにならないものはないといいます。

かといってダンマリを決め込むと、「なにか言いなさいよ」「人の話、聞いてるの?」と詰め寄られる持久戦に突入してしまう可能性も。

そもそも、本来であれば穏やかに伝えればすむ話を、わざわざお互いに言い合いに発展させているにすぎないのです。

だからこそ、たとえ自分の主張は投げられなかったとしても、「こんなふうにしちゃって、ごめん」と、“こんな状況を招いたこと”に対して謝ることはできるという考え方です。

とはいえ興奮しているとき、謝ることは決して簡単ではありません。

「なんで俺が謝らなきゃならないんだ」と思うこともあるでしょうし、「おまえのほうが絶対に悪い」と譲れない部分もあって当然です。

しかし、それではどれだけ時間をかけたところで、なにも解決しません。だから、「それでもやっぱり謝るべきなのです」と著者は主張しているのです。(105ページより)

部下を叱るときは?

場合によっては、部下を叱らなければならない場面もあるはずです。ただしその場合はビジネス上の上下関係があるので、基本的に言い合いになることは少ないでしょう。

とはいえ一方通行になるため、自分の感情を晴らすために怒っているのではないということを、態度と言葉で示す必要があるといいます。

「上司はストレス解消のために叱ってる」などと文句を言う人もいますが、実際には叱る側にもパワーが必要とされるものです。疲れるし嫌な気分にもなるので、上司としてもできれば避けたいわけです。

しかし、それでも言わなければならないときは、相手の1メートルくらい前で極力視線を離さずに話すことが大切だとか。

「君に文句がある」など単刀直入な感じで伝えたあと、相手の目をじっと見ながら、叱らなければならない内容を話していけばいいんです。(108ページ)

ただし、叱ったあとにはフォローアップも大切。

叱りっぱなしではなく、「叱ったけど、これからますますいい仕事をしていこう」というような気持ちを、“自分なりの表現”で伝えるべきだということ。

愛情の片鱗が伝われば、かえって信頼関係が増すだろうと著者は記しています。(106ページより)

本書は、アナウンサーとしてことばを見つめ続けてきた著者の実績に基づく「会話術の集大成」。そのため紹介されている「凝縮ワード」の数々は、どんな人の会話のなかでもすぐに使えるはずだといいます。

簡潔に、そして確実に伝えたいという思いを抱いている方にとっては、大きく役立ちそうな一冊です。

Photo: 印南敦史

Source: ワニブックス

メディアジーン lifehacker
2019年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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