世界地図を読み直す…北岡伸一著

レビュー

5
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世界地図を読み直す

『世界地図を読み直す』

著者
北岡 伸一 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106038402
発売日
2019/05/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

世界地図を読み直す…北岡伸一著

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

日本を考え直す契機に

 日本外交史の大家で、現在はJICA(国際協力機構)理事長を務める著者が、世界各国を訪問した際に見聞きし、感じたことをまとめたユニークな1冊である。20か国以上の国々への訪問の記録が、興味深い叙述で綴(つづ)られている。一般読者にとっては、扱われている国々の数が多すぎるかもしれない。しかし、それでも世界中を駆け回る著者にとっては、ほんの一部の紹介である。むしろ気楽に旅行エッセーを楽しむ思いで読んでみよう。そのほうが、著者のメッセージを、よりよく捉えていけるだろう。

 実際に足を運んで世界各地の地域情勢を観察することによって、地理的条件を重視した政治学としての「地政学」が、よくわかるようになる。その意味では本書は、まさに「地政学」の本である。著者は、「地政学」的眼差(まなざ)しを持って「世界地図を読み直す」ことの大切さを伝えようとしている。

 だが、それだけではない。歴史家である著者の眼差しは、訪問先の国々の歴史に、常に深く注がれている。興味深い各国の歴史的逸話や人物が、次々と紹介されていく。著者は、地理と歴史の双方をふまえ、「時空を縦横に比較して考えること」の大切さを伝えようとしている。

 さらに本書は、世界地図と世界史における日本の位置を見定め続ける。著者は、訪問先の国が、地理的・歴史的な観点から、日本とどう関わっているのかを、要領よく語り続ける。さらに、訪問先の国が日本に示してくれる教訓を明らかにしようとする。そして各国における日本の援助の意味を考察する。JICAの援助哲学や、日本の外交政策の現場の様子も紹介されている。つまり本書は、日本を考え直す契機としても鮮やかな仕上がりを見せている。

 当代一流の日本外交史家であり、日本最大の国際協力組織の長でもある著者は、現代日本において稀有(けう)な存在だ。本書は、その著者の思考にふれることができるまさに稀有な一書である。

 ◇きたおか・しんいち=1948年生まれ。東京大名誉教授。国連大使などを歴任。著書に『自民党』など。

読売新聞
2019年7月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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