大坊珈琲店のマニュアル…大坊勝次著

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大坊珈琲店のマニュアル

『大坊珈琲店のマニュアル』

著者
大坊 勝次 [著]
出版社
誠文堂新光社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784416517734
発売日
2019/05/14
価格
3,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

大坊珈琲店のマニュアル…大坊勝次著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 珈琲(コーヒー)店では「黙っている人が話していないかというと、そうでもない」。そんな言葉にはっとさせられる。職場や家庭での役割から離れて、一人でカウンターに座っているとき。コーヒーを味わい、ほっとした気分に包まれているなら、その人は心のなかで誰かと話している。それは友人でも、すでに亡い人でも、あるいは自分自身でも。

 惜しまれながら五年前に閉じた、東京・青山の珈琲店の主人が綴(つづ)った本である。しばしば訪れたわけではないが、そう言えば、車のたくさん通る道に面しているのに、空気が静かな店だったと思う。会話禁止というわけではなく、反対にうるさい気配になることもない。

 客の話をさりげなく引き取ったり、従業員が呼び合うとき、ていねいなサンづけにしたり。そうした細やかな配慮がうみだすものだったと、この本を読んで気づかされる。

 人と人のあいだにある、かすかな隙間をていねいに保つこと。ゆっくりとした時間の流れを大事にすること。美術や演劇をめぐる考察も含めて、本当の意味で自由な精神の動きが伝わってくる。(誠文堂新光社、2800円)

読売新聞
2019年7月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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