「年金問題」「消費税増税」今こそ読むべきおカネの話

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しあわせとお金の距離について

『しあわせとお金の距離について』

著者
佐藤治彦 [著]
出版社
晶文社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794970848
発売日
2019/04/24
価格
1,595円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

“年金問題”“消費税増税”今こそ読むべきおカネの本

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

「老後に備え、二〇〇〇万円貯めよ」は効きましたねえ。中高年はもちろん若年層にもショックだったようで、時に行列ができ、いつも満席の居酒屋に空席があったくらいです。

「人生一〇〇年時代」とも言われ、長寿はめでたいことですが、同時にそれはカネがかかるということです。となると切り詰めよう、何かに投資して蓄財を、となりがちですが、著者はそうは勧めません。貯めるよりカネをどう使うかに言葉の多くを費します。

 著者は経済評論家で、これまでたくさんの本を著していますが、本書では数字を多用せず、相談を受けた消費者や友人知人、そして両親の話などをエッセイ風に展開しています。数字を苦手とする人にうってつけです。そしてエピソードは優しく綴られ、知らず知らずのうちに読者はカネの使い方について考えているのです。両親のことを書いた「僕が特上のにぎり寿司を食べられない理由」と「父の再就職物語」、そしてあとがきの母との思い出「一〇円玉の重み」はしみじみします。誰もが両親の子であり、我が身に引き寄せて読むからでしょう。

「僕が特上の~」は、両親が贅沢をしなかった故の話で、「もっとお金も使って人生を楽しんでもらいたかった」との息子としての切実な思いがこもっています。「父の~」は学歴がありながら生き方が不器用だった父親の話で、「一〇円玉の~」は、幼少期の著者と母との思い出で、母から渡された一〇円玉を著者が傷痍軍人に届ける話です。

 あれから半世紀、街に傷痍軍人の姿はなく、平成は戦争のない時代でした。しかしデフレは二〇年続き、実質賃金は下がり、多くの人が豊かさを実感できず、息苦しさに喘いでいます。そして噴出した年金問題に消費税増税が追い打ちをかけます。『れいわ新選組』の台頭はそのことと無縁ではないでしょう。

 そんな時こそカネのことを考える、恰好の一冊だと思います。

新潮社 週刊新潮
2019年8月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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