“名経営者”が説く“信仰心”にも似た信念
[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)
京セラ、KDDIという二つの世界的大企業を設立し、経営破綻したJAL(日本航空)を奇跡の再生に導いた稲盛和夫が、130万部を突破した不朽の名著『生き方』の続編である『心。』を執筆し、トーハン、日販のビジネス書週間ランキングで2週連続の1位になっている。本書も『生き方』に引けをとらない名著である。
すべては“心”に始まり、“心”に終わる。著者が八十余年の人生を振り返り、多くの人たちに伝え、残していきたいのは「心がすべてを決めている」ということだ。人生とは心が紡ぎ出すものであり、目の前で起きるあらゆる出来事は、自らの心が呼び寄せたものである。人生の目的は心を高めること、そして「利他の心」で生きることにある。
人生という道のりは、誰にとっても波乱万丈なものだ。そこで大事になるのは、いかなるときでもすべてのことに「感謝の心」をもって対応することである。順風満帆のときはもちろん、災難、苦悩、不幸といった状況に直面しているときこそ、感謝をする「絶好の機会」だと著者は語る。災難に遭ったのは業が消えたということである。だから業がなくなったことを「喜ぶ」べきなのだ。感謝の心というのは、他者に対してへりくだる気持ちがないと出てこない。いまの自分があるのは、これまで支えてくれた多くの人たちのおかげである。また謙虚な心を持つことは、悪しき出来事を遠ざけ、よい人生を送るための護符の代わりにもなるのである。
では心を浄化し、美しくするためにはどうしたらいいのだろう? それは目の前の、なすべき仕事に全精力をかけて没入することだ。日々の仕事に全精力を傾けることによって、心が浄化される。心が澄みきった状態のとき、人は宇宙の真理ともいうべき、物事の本質にふれることができるのではないかと著者は述べている。
純粋で美しい心をもって事にあたるならば、何事もうまくいかないものはない。つねに心を磨き、自己を高めつづけていけば、いかなる苦難に見舞われようと、運命はかならずやさしく微笑み返してくれる。著者の持つ信仰心にも似た信念は世の真理なのかもしれない。