新入社員に「ラジオDJ」研修。小さなガス会社の世界最先端な社員教育

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福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育

『福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育』

著者
篠木雄司 [著]
出版社
あさ出版
ISBN
9784866671154
発売日
2019/08/07
価格
1,650円(税込)

新入社員に「ラジオDJ」研修。小さなガス会社の世界最先端な社員教育

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

福島の小さなガス会社がやっていた 世界最先端の社員教育』(篠木雄司 著、あさ出版)の著者は、福島市内を中心にLPガスや灯油、重油などを提供しているアポロガスの会長。

同社はグループ全体を含めても社員数70人という、地方の小さな会社です。しかしここ数年は、全国各地のさまざまな企業から見学の依頼が殺到しているのだとか。

2011年から取り組んでいる新入社員向けの新人研修が、大きな話題を呼んでいるというのです。

たしかに、弊社が実施している新人研修は、一風変わっています。 いわゆる「業務研修」はほとんどありません。新入社員には週に1回、地元のFM局でラジオDJを担当してもらったり、会社主催のイベント等でスタッフとして働いてもらったり、地元の大学や小学校、幼稚園等での講師役を務めてもらったりなど、とにかくいろいろな経験・体験をしてもらっています。

なぜ、こうした研修内容にしているのかというと、若い彼らに「自分で考え、行動する」という習慣を徹底的に身につけていってほしいからです。(「はじめに」より)

根底にあるのは、世界が急激に変化しているなか、会社を存続させ、雇用を守っていくためには「変化対応能力のある人」をつくっていけばいいのではないかという考え方。

そのための方法を試行錯誤しているうちに、現在の研修内容になっていったというのです。

第2章「150の研修が目指していること」に焦点を当て、その研修についてさらに検証してみましょう。

「未知な体験」をたくさんしてもらう

アポロガスの新人研修は、数年前に「ナニコレ珍百景」(テレビ朝日系列)というテレビ番組で紹介されたことがあるのだそうです。

そのとき取り上げられたのが、先に触れた「ラジオDJ」研修。新入社員が、入社2週間目から自分の名前のついた冠ラジオ番組を持つというものです。

それが注目され、最近では「新入社員研修で50日間、150種類の研修を行い、100本の論文を書かせるユニークな会社」ということでも有名になっているのだというのです。

毎年、そんな数の研修を行っているわけではなく、2017年に例外的にその数字になっただけだといいますが、そうにしてもやはりユニークです。

アポロガスの新人研修では、いわゆる「業務研修」にあたるものがほとんどありません。実際の業務に関する研修は、配属が決まった後、実際の業務の中で身につけていってもらう「OOJT」(On-The-Job Training)の形で行うのが、私たちのスタンスです。

では、新人研修では何をするのかというと、「未体験なことをできるだけ多く経験・体験してもらう」です。そのため、新入社員には、とにかくいろいろな未知の体験に挑戦してもらいます。(65~66ページより)

たとえば、新人研修で最初に行うのが内定後の「着ぐるみ研修」。

アポロガスグループが毎年秋に実施しているお客さま感謝祭で、着ぐるみを着てお客さまをお迎えするというものです。

内定後に着ぐるみを着せられることになるとは、新入社員も予想していなかったはず。

さらに、東日本大震災後に始まったキャンドルと音楽のイベント「アカリトライブ」の準備手伝いやアナウンス研修、学生向けのラジオバトル選手権の企画・運営なども、内定中に経験してもらうのだといいます。

そして入社後2週間目にスタートするのが、地元のFMラジオ局での「ラジオDJ研修」。週1回、10分間の放送を1年間にわたり担当してもらうというものです。

そこで新入社員たちは、生放送でのDJをはじめ、番組の企画やゲストの選定、原稿づくりなど、ラジオ番組づくりに関するさまざまな仕事を体験することになるわけです。

他にも地元の大学や小学校、幼稚園などでの講師体験、アポロガスグループのテレビCM出演など広報活動への参加、著者の外まわりに同行し、県内外の著名人から話を聞くなど多種多様。

一般的な尺度からすると、研修の枠をはるかに飛び越えています。(64ページより)

「未知」の「無駄」な体験こそ将来プラスになる

著者がこうした「未知の体験」にこだわるのには、はっきりとした理由があるのだそうです。初めてのことや慣れないことをすることはストレスとなり、とてもしんどいから。

当然のことながら、やり遂げるまでには多くの大変なことに遭遇し、苦労することも少なくないはずです。

しかし、そうした過程において、壁を乗り越えようと考え、行動し、うまくいかないときにはもう一度考えなおし、再トライする

そうした繰り返しのなかで、人はさまざまなことを学び、成長していくもの。そこが重要だと考えているわけです。

そのため、新入社員たちがそうした研修を通じ、さまざまな学びを得てくれることに著者は期待しているそうです。

さらに、私が新人研修で重視しているのが、一般的に見れば「無駄な経験」というものを、社会人の仲間入りをする前後のこの時期に、たくさん経験してもらうこと、です。

これは私の考え方なのですが、「一般的に見て無駄な経験」というのは、じつはその後の人生において大きな肥やしになります。(68ページより)

それは、著者が自身の人生を振り返ってみても実感できるのだそうです。

当時は「俺はなんて無駄なことをやってしまったんだ…」と感じていたことが、その後の人生においてさまざまな発想を生み出すきっかけになったことが少なくないということ。

そしてそのたびに、「あのときの経験は無駄ではなかったんだな」という思いにかられるというのです。

未知の経験にしても無駄な経験にしても、若いうちのほうが受け入れやすいもの。ある程度、社会人経験を積んでしまうと、思い込みやプライドなどに邪魔されて、初めてのことや慣れないことは避ける傾向が強くなってしまうわけです。

また、そうしたことから素直な学びを得にくくもなるでしょう。

そういう意味でも、社会人として「真っ白」な新入社員だからこそ、こうした研修がしやすいというわけです。

そして、それらを経験した新入社員は、一般的な研修しかしていない人よりも多くのことを、そこから学び取ることができるということです。(67ページより)

大学のキャリア教育の専門家によれば、アポロガスの新人研修は、アメリカのキャリア理論の大家であるジョン・D・クランボルツ博士の提唱した「計画的偶発性理論」をナチュラルに実践しているのだそうです。

そのためタイトルに、「世界最先端」ということばが用いられているわけです。

学術的にも効果が証明されているそんな社員研修を、自社に取り入れてみてはいかがでしょうか? もしかしたら、新入社員の意識が変わるかもしれません。

Photo: 印南敦史

Source: あさ出版

メディアジーン lifehacker
2019年8月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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