玄宗皇帝/バシレウス 呂不韋伝…塚本青史著 潮出版社/NHK出版

レビュー

5
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玄宗皇帝

『玄宗皇帝』

著者
塚本靑史 [著]
出版社
潮出版社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784267021831
発売日
2019/05/07
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

バシレウス: 呂不韋伝

『バシレウス: 呂不韋伝』

著者
塚本青史 [著]
出版社
NHK出版
ISBN
9784140057032
発売日
2019/04/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

玄宗皇帝/バシレウス 呂不韋伝…塚本青史著 潮出版社/NHK出版

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 塚本青史(せいし)氏は、今までも玄宗皇帝や呂不韋(りょふい)を描いてきた。氏の新作を読み、まだこんな新しい描きかたがあるのか、とうなった。

 『玄宗皇帝』は、唐の第6代皇帝となった李隆基(りりゅうき)の一代記だ。彼が生まれたとき「周辺の人間関係は、正に地獄絵図だった」。彼の祖母は中国史上、唯一の女性皇帝にのぼりつめた則天武后こと武照。武照の死後、李隆基の伯父である皇帝は、野心家の妻と娘によって毒殺される。若き李隆基はクーデターを起こし、2人の首を取る。皇帝となった李隆基は、唐の最盛期をもたらす。その後の安禄山の乱、失意の晩年までを、大胆なフィクションも交えて描く。

 日本人も出てくる。遣唐使として来唐した阿倍仲麻呂、吉備真備、玄●(げんぼう)のうち、仲麻呂だけが難関の科挙に合格し、唐の高官になる。その裏には八百長があった。21世紀に入って存在が明らかになった日本人・井真成(せいしんせい)の死の裏事情も描かれる。(●は日へんに「方」)

 皇帝隆基が寵愛(ちょうあい)した楊貴妃は、もともと息子・寿王の妃(きさき)だった。世間は、妻を父に取られた寿王に同情する。寿王は、李隆基に仕える宦官(かんがん)の高力士にだけ、真相を打ち明ける。本作の楊貴妃は、アレキサンダー大王の子孫を自称する高慢な美女だった。

 そんな伝奇的な想像力がさらにはじけるのが、若き秦王政(後の秦の始皇帝)と、彼に仕えた呂不韋を描く『バシレウス』である。バシレウスは「諸王の王」の意の古代ギリシャ語。呂不韋と秦王政は、家系は異なるが、ともにアレキサンダー大王の子孫だった。戦国時代の末、圧倒的な数の連合軍が、秦に攻めてくる。呂不韋と秦王政は、異能の技術者集団・墨家の軍事技術とギリシャの密集方陣戦術で迎え撃つ。

 2冊とも、気宇壮大で、人間関係の機微に富む群像劇だ。猛暑を忘れて一気読みした。

 ◇つかもと・せいし=1949年生まれ。作家。『煬帝』で歴史時代作家クラブ作品賞。

読売新聞
2019年8月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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