いるいないみらい…窪美澄著 KADOKAWA

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いるいないみらい

『いるいないみらい』

著者
窪 美澄 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041054925
発売日
2019/06/28
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

いるいないみらい…窪美澄著 KADOKAWA

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 子どものいる未来、子どもがいない未来。

 家族における「子どもの存在」をテーマに、五つの短編がゆるやかに結びつく。

 「1DKとメロンパン」の語り手は、容姿はまあ10人中9番目か10番目という知佳ちゃん。彼女は、「おいしそうに食べる顔をいつまでも見ていたい」とプロポーズされた、ホームセンターの園芸コーナーで働く几帳面(きちょうめん)で心優しい智宏と結婚する。これまでの人生、時には意に沿わぬことものみ込み、うまく折り合いをつけて生きてきた聡(さと)い知佳ちゃんは、子どもを持つことにいかなる折り合いを付けるのか。

 「無花果(いちじく)のレジデンス」では、リアルな「妊活」が描かれる。「就活」「婚活」「離活」と活を使った言葉の乱用には是非がある。しかし、実際には、なかなか行動に移せない事柄も「カツ」の音の軽やかな勢いに後押しされ、前向きになる人も多いのではないだろうか。

 「妊活」もその一つ。

 女性は、自身の身体に百万~二百万個の卵子を持って生まれてくる。生後、新たに作られることはない。年をとれば卵子も同様に年をとり、50歳前後でゼロになるまで、数は減り続ける。そう知れば、子どもを持ちたい女性は「活動」を始めるだろう。医療の進歩でさまざまな不妊の原因が発見され、治療の選択肢が提示される。私の友人は「不妊治療の病院で、受験戦争を思い出した」と話していたが、ここに登場する医師は、カラフルなパンフレットを取り出し、まるで保険の勧誘員のように治療の説明をする。

 「私は子どもが大嫌い」「金木犀(きんもくせい)のベランダ」では血のつながり、「ほおずきを鳴らす」では、ちょっと切ない夫婦関係に思いを致す。

 厳しい現実も描かれるが、どの話にもやわらかな希望が見える。「家族をつくる」という大きなテーマを読むのだが、ふと仲の良い夫婦が営む、おいしいパン屋がある街を訪れたような気分にさせられる。これは、作者の巧みな企(たくら)み。

 ◇くぼ・みすみ=1965年、東京都生まれ。2009年に小説家デビュー。19年、前作『トリニティ』で直木賞候補。

読売新聞
2019年8月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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