『自由思考』
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【聞きたい。】中村文則さん 『自由思考』
[文] 海老沢類(産経新聞社)
■多様性愛する初エッセー集
エッセー集を編むのは意外にもこれが初めて。作家デビューから17年、折に触れて新聞や雑誌などに発表してきた文章に、書き下ろしを加えた111本が収められている。
「ときどきの時代背景の中で、『今必要とされる言葉って何だろう?』と、よく考えてましたね。エッセーは小説よりも短くて自由な感じがあって、いろんなことを試せるのも面白い」
東日本大震災の直後、大学時代を過ごした福島の地元紙に寄せた温かなメッセージもあれば、自作の誕生秘話、ドストエフスキーや太宰治への偏愛をつづった文章もある。一方で、森友学園問題などを取り上げて政権を批判。強者の立場から物事を語る人が増えている、と現代社会にも警鐘を鳴らす。
年間自殺者が3万人に上る現実に触れた産経新聞掲載の「文化も救ってくれる」(平成21年2月)は現代文の入試問題にも使われたという。生きることにしんどさを感じながら、いろんな小説を読み、言葉を取り込むことで救われてきたと回想する。そして、絶望を感じる世の中であっても〈文化は、すべての人間に対して、平等に開かれている〉と書く。
「昔から変わっていないのは、多数派と少数派がいたら基本、少数の側に立つという意識ですね。僕自身ずっと生きづらさを抱えて生きてきたので、どうしてもそういう立場から物事を見る。文学というのはすごく幅の広いもの。国や政治を超えて、人を救うと思うんです」
著者あとがきに〈私は全ての多様性を愛する〉とある。そんな思いも込めながら、作家志望者へのアドバイスも書き下ろした。「今の文学シーンなんて頑張って自分で変えちゃえばいい。いろんな作家がいればいいんですよ。華々しく出てくる新人、求めてます」(河出書房新社・1400円+税)
海老沢類
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【プロフィル】中村文則
なかむら・ふみのり 昭和52年、愛知県生まれ。平成14年に『銃』でデビュー。17年に『土の中の子供』で芥川賞。『掏(ス)摸(リ)』の英訳版が米紙ウォールストリート・ジャーナルの年間ベスト10小説に選ばれるなど海外でも評価が高い。