弱小球団を変身させたビッグデータと昭和的根回し

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ビッグデータ・ベースボール

『ビッグデータ・ベースボール』

著者
Sawchik, Travis桑田, 健, 1965-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784040823287
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

弱小球団を変身させたビッグデータと根回し

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 アメリカ大リーグは球団数が多く、強いチームと弱いチームの差も極端だ。なかでもピッツバーグ・パイレーツは弱小球団の代名詞といってよい。

 20年間、勝ち越したシーズンがない。そんな危機的状況を脱しようともがいた2013年のドラマを描いたのが、トラヴィス・ソーチックビッグデータベースボール』(桑田健訳)だ。著者はかつてパイレーツ担当記者だったスポーツライター。

 選手OBではないデータ分析官と、現場で実戦に明け暮れるプロの心を一つにまとめる物語だ。野球は、すぐれたプレイヤーの皮膚感覚で選ばれてきた「セオリー」がハバをきかせる世界。そこで生きてきた人たちをどう説得するか。

 データ分析に携わるスタッフはつねに選手やコーチの目の前にいるように心がけ、疑問や提案を言いやすくするとか、メジャーでいきなり大改革に着手すると猛反発を生むのでまずマイナーで試すとか、昭和的な根回しが涙ぐましい。しかしそのようにして導入された常識はずれの守備シフトや、投球方針(球種や組み立て)の劇的な変更などが、やがておもしろいように機能しはじめる。大型補強などできるはずもない金欠球団は、いまいる選手を磨き上げるしか手がないが、しかし常勝軍団には決してできない捨て身の変身をしたのである。

 サッカー漫画『GIANT KILLING』や野球漫画『ONE OUTS』がお好きな方はぜひ。大物喰いの爽快感は夏にふさわしい。

新潮社 週刊新潮
2019年8月29日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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