ガラケー世代の心も掴む“人生のクリエイター”の哲学
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
自伝? エッセイ? 自己啓発?――ジャンル分けに困るタイプの本はこれまで売り方が難しいとされていた。そのうえ「SNSや動画で話題の著者」と聞くと、私のような昭和生まれの人間は最初から及び腰で眺めてしまうことも多い。
だが、そうしたつまらない偏見など鮮やかにスワイプする本が『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』。若年層はもちろんガラケー世代の読者からも受けが良く、今年4月の刊行以来、5刷15万部の大躍進が続いている。
著者のkemioは高校生の頃に動画の投稿でブレイク。現在、YouTubeの登録者数だけでも150万人に迫る勢いだ。
「コメント欄を覗いてみたら、彼独特の言葉づかいや考え方を自分の人生に取り込みたいという人が多かったんです。これは一冊の本にまとめるべきだと思いました」と担当編集者は語る。
実際、女子中高生の流行語1位にも輝いた「あげみざわ」(テンションが上がっている、という意味らしい)の生みの親としても知られるkemio。本書の中でも斬新なパワーワードが次から次へと飛び出すが、文章の核となっている部分は意外なほど成熟した死生観と人生哲学だ。
例えば、2歳のときに両親を亡くした幼少期については〈祖父母が子育てROUND2してくれたから気にしたことはない〉と軽やかに語り、〈HAPPYをシェアするYouTubeはデジタル遺書〉と定義する。家族、仕事、セクシャリティ――どのテーマを語るときでも自慢や自虐に陥らない。一見、頓狂にも感じる言葉選びも、読み進めるうちに不思議と説得力を帯びていく。いうなれば彼の文章そのものが、自らトライ&エラーを繰り返すしかない人生の本質を象徴しているのだろう。
「人の悩みって、ライフステージごとに新しく生まれるものなのに、考え方のほうは年齢を重ねるうちにどんどん凝り固まってしまうんですよね。kemioさんの言葉は、規範や常識にがんじがらめになっている人の心を解きほぐしてくれるんだと思います」(担当編集者)