【聞きたい。】水口直樹さん 『僕は偽薬を売ることにした』

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僕は偽薬を売ることにした

『僕は偽薬を売ることにした』

著者
水口直樹 [著]
出版社
国書刊行会
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784336063755
発売日
2019/07/26
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】水口直樹さん 『僕は偽薬を売ることにした』

[レビュアー] 平沢裕子

■ニセモノの活用法探る


水口直樹さん

 著者はプラセボ製薬株式会社代表。売っている偽薬は、見た目は薬だが、有効成分が入っていない「食品」だ。この偽薬は、介護施設で薬を何度も求める認知症などの高齢者に本物の薬の代わりとして渡す、というようにして使われている。高齢者が精神的に落ち着くのと、有効成分が入っていないので飲んでも副作用の心配がないためだ。

 「本を書いたのは、ニセモノとして負のイメージがある偽薬の価値を向上させたかったから。偽薬は今は主に介護施設で使われているが、ゆくゆくは医療機関にも広げたい」

 偽薬には、飲むことで症状に何らかの改善がみられる「プラセボ(偽薬)効果」があることが知られている。プラセボ効果を得るには偽薬を本物と思わせる必要があるとされ、患者へのインフォームドコンセント(説明と同意)が求められる医療の場で使うのは難しい。それが最近、過敏性大腸炎やうつなどで偽薬と知って飲んでも症状の改善がみられるとの研究結果が報告され、医療の場でも使える可能性が出てきた。

 「医薬品に比べ価格が安い偽薬を医療の場で使うことができれば医療費の抑制になる。うつでの偽薬活用で薬の副作用が減れば患者にもメリットだ」

 プラセボ効果を得るのとは別の活用法もある。抗生物質の代わりに偽薬を使うのだ。抗生物質はウイルスには効かないが、インフルエンザなどウイルスが原因の病気の患者に渡され、耐性菌を蔓延(まんえん)させる一因となっている。抗生物質を渡すのは患者がほしがるからだが、偽薬に代えれば患者も「薬をもらった」と納得するし、耐性菌の蔓延を防げるかもしれない。

 「今はすごい効果がある薬しか薬として認められないが、薬の力でなく、患者と医師の人間関係で改善する病気もある。よりよい医療のために、多くの人に偽薬に関心を持ってもらいたい」(国書刊行会・1800円+税)

 平沢裕子

   ◇

【プロフィル】水口直樹

 みずぐち・なおき 昭和61年、滋賀県生まれ。平成24年、京都大大学院薬学研究科修了、製薬会社に研究開発職として入社。26年に退社し、プラセボ製薬設立。

産経新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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