明智光秀・秀満…小和田哲男著

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明智光秀・秀満

『明智光秀・秀満』

著者
小和田 哲男 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784623086566
発売日
2019/06/14
価格
2,750円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

明智光秀・秀満…小和田哲男著

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 明智光秀は、なぜ織田信長を討ったのか? 信長の信任を得ていたはずの光秀の裏切りは、あまりにも唐突にみえる。本能寺の変は「日本史の謎」の最右翼に位置するといっていいだろう。

 歴史は往々にして勝者によって語られる。光秀を破って織田政権簒奪(さんだつ)をはたした豊臣秀吉が、「主殺し」を強調し、さらに江戸時代の儒教的武士道徳が後押しして、光秀といえば逆臣で悪人というイメージが作り上げられた。著者によれば、勝者によって貶(おとし)められた敗者の最たる例が光秀だ。本書は、歪(ゆが)みを是正し、光秀と、彼を支えた娘婿の秀満の実像をあきらかにする試みである。

 ところが光秀の生年や出身からして謎が多い。著者は通説とされるものの根拠を探り、妥当と判断できる隘路(あいろ)をたどっていく。明智光秀関係史料・研究史の総ざらいの感のある、丹念な叙述である。その結果浮かび上がってくるのは、信長の正室となった斎藤道三の娘との関係、越前朝倉氏への仕官、同国へ逃れてきた足利義昭・彼の側近細川藤孝との出会いだ。光秀は、義昭主従と信長を繋(つな)ぎ、信長が上洛(じょうらく)して義昭を将軍に据える機縁をつくった。

 信長は戦国乱世をとりまとめ、統一政権への道をつけた。すなわち、天皇、将軍、比叡山・一向宗などの宗教勢力および多くの戦国大名との抗争・交渉を勝ち抜いたということである。光秀は多様な勢力の結節点に立って、信長のために奔走した。

 だが周囲の事情に通じすぎると、目標への視線がぶれてしまうことがある。一方、都を制圧した信長は、天皇大権の侵害とも思える不遜な姿勢をとるようになる。

 怨恨(えんこん)・野望・抑鬱(よくうつ)・陰謀・黒幕など、本能寺の変をめぐる諸説を検証したうえで、著者がどのような結論にいたったかは、本書を手にとって確認してほしい。

 著者が最終章で言及する光秀の人柄は、温和で情に厚く、悪人の対極と思えるものである。

 ◇おわだ・てつお=1944年生まれ。静岡大名誉教授。戦国大名研究で知られ『戦国武将の実力』など著書多数。

読売新聞
2019年8月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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