キュー 上田岳弘著…新潮社 

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キュー

『キュー』

著者
上田 岳弘 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103367352
発売日
2019/05/29
価格
2,530円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

キュー 上田岳弘著…新潮社

[レビュアー] 森健(ジャーナリスト)

 読んでいる最中、たびたび読み手の想像力を試されているような気分になった。これだけ挑戦的な小説はいつ以来だろうか。

 本作は昨年下半期の芥川賞を受賞した著者による初の長編だ。物語は、オフィスビル街の心療内科医の主人公・立花徹が「等国(レヴェラーズ)」という組織に拉致されるところから動き出す。「等国」は「権限を分散し続ける」集団だが、彼らには対立する組織「錐国(ギムレッツ)」がある。こちらは世界の権力を錐体(すいたい)にするような指向性をもつ集団だ。

 なぜ主人公は拉致されたのか。鍵を握るのが長い間寝たきりだった彼の祖父=立花茂樹の存在だ。祖父は戦前の関東軍作戦参謀だった石原(いしわら)莞爾(かんじ)と交流があった人物。この祖父が「等国」「錐国」の「世界最終戦争」に関わっていること、それどころか、いまの世界そのものが祖父の頭の中で構成される産物であることが次第に明らかになっていく。

 謎の人物はまだいる。主人公が高校時代に好意をもっていた女性・渡辺恭子や「等国」の男性・武藤。渡辺は前世の自分が広島で原爆に焼かれた記憶をもち、武藤は<個の廃止>を到来させる役目を担っている。複雑な背景をもつ人物は世界のあり方に繰り返し問いを投げかける。

 本書では複数の時代が並行して進む。祖父の戦中戦後、主人公の現代、1人の人物と人造人間だけが暮らす700年後の未来……。ややこしいことに、物語の話者も立花徹から茂樹、渡辺恭子、武藤……と次々に切り替わる。いくつもの謎が伏線として張られながら、登場人物たちが東北のある場所へと集結すると、物語は大きく展開、収斂(しゅうれん)へとなだれ込んでいく。

 漫然と読むことを許さない創造者の目を行間に感じるが、途方もない想像力に伴走すると著者こそが祖父のような存在にも思えてくる。

 カート・ヴォネガットや村上春樹を連想させる壮大なテーマと緻密(ちみつ)に計算されたプロット。文学の醍醐(だいご)味を久しぶりに感じさせる作品だ。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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