未来のアラブ人 リアド・サトゥフ著…花伝社

レビュー

12
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

未来のアラブ人―中東の子ども時代(1978―1984)

『未来のアラブ人―中東の子ども時代(1978―1984)』

著者
リアド・サトゥフ [著]/鵜野孝紀 [訳]
出版社
花伝社
ISBN
9784763408945
発売日
2019/07/26
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

未来のアラブ人 リアド・サトゥフ著…花伝社

[レビュアー] 一青窈(歌手)

 この漫画は1980年前後にリビア、シリア、フランスで育った作者の誕生から6歳までの自伝である。社会情勢に翻弄(ほんろう)され、親が住空間を転々と変える中、淡々と子供時代を過ごし、端から見れば波乱万丈に見えるのだがユーモアたっぷりに描かれている。映画監督でもある彼は、絵の才能に幼少から長(た)けていたそうで、その記録が独特で面白い。配給で食事をしのいだり、リビア最高指導者として独裁政治を行なったカダフィ政権下では、イエメン人とインド人の友達と遊んで幼少を過ごす。しかしどこの街でも風は吹き、レジ袋が舞う光景があるのだと共感が持てたり、シリアにて近所のおばさんが雨の中、赤ん坊をコンクリートの上に寝かしながら洗濯物を干し、終えると足を掴(つか)んで抱き抱え、何度もキスをするという一コマがあって、衝撃的だったが又(また)そこに全世界に共通する変わらぬ母の深い愛を感じ取れて、ホッとした。

 独裁政権=悪のイメージや、内戦や空爆、難民のニュースも相まってシリア・リビアは遠いどこかの世界で実生活までは想像を巡らしたことが無かったので、支援団体“ピースオブシリア”の代表中野貴行さんに話を伺った。JICAの隊員として彼は2008年から現地の田舎で平和なシリアを2年間味わった。食料も薬も自給自足で潤沢に賄われ、バスで隣り合わせた見知らぬ人の運賃を誰かが肩代わりしたりと、他宗教に差別も区別もなく、豊かさを分け与え合ういい空気を体感したそうだ。

 現地の少女に励まされた彼と同じく、私も渡航する第三世界の子供にいつも学びや勇気を貰(もら)う。どんな状況下でも夢を持ち、笑顔でキラキラと遊び、生き抜く力は子供こそが持てる強さであり、未来の希望の光である。何か悲惨なニュースを見てから動くのも勿論(もちろん)良いが、何もない平和な状況を知るということは他文化、他国への関心、そして理解に繋(つな)がる。この本もそんな1冊だと思う。鵜野孝紀訳。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加