有限存在と永遠存在…エーディト・シュタイン著

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有限存在と永遠存在

『有限存在と永遠存在』

著者
エーディト・シュタイン [著]/道躰章弘 [訳]
出版社
水声社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784801004207
発売日
2019/03/25
価格
8,800円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

有限存在と永遠存在…エーディト・シュタイン著

[レビュアー] 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 永遠性についての深い洞察を示す、待ち望まれた名著の翻訳が格調高い日本語で現れた。

 エーディト・シュタイン(一八九一~一九四二)は二〇世紀前半の偉大な女性哲学者だ。ユダヤ人に生まれ、戦争によって運命を翻弄(ほんろう)され、アウシュヴィッツで殺された。

 現象学の開祖フッサールの下に学び、抜きんでた資質を認められ、助手となり、師の著作を整理編集する仕事に献身する。用語も文体も硬質になっていく。だが、彼女は本質的に情熱の人である。十六世紀スペインの神秘主義者アビラのテレサの自叙伝に出会い、回心し、修道女の道を選ぶことになる。

 彼女は、現代哲学では探求されなくなった永遠存在(神)と有限存在(人間)との関係を追い求める。その際の鍵になるのが、「永遠」である。永遠とは、決して終わりなき無限に長い時間を意味するのではない。

 彼女は、死刑判決を受けて監獄の中で思想の精髄を究めた古代哲学者ボエティウスの「永遠」の説明を援用する。「永遠」とは、「限りなき生命の総(すべ)てを一度に完全に所有することである」。ここに、シュタインは、生命と人格と個体が輻輳(ふくそう)して凝集する地点を見出(みいだ)す。

 永遠存在は、神の性質でありながら、人間もそこに参与できるものであり、一つの瞬間も永遠を分有できるという。死すべき限りある人間も、「総てを一度に」を可能性として手にすることができる。

 八月は様々なことを考えさせる。古代から現代の哲学者達(たち)が問い続けた、有限なる人間存在と永遠なる神的存在との関係を、絶望の断絶においてではなく、希望の連続性において示そうとする本書は、八月九日が命日となるシュタインの祈りの書なのである。

 三月に刊行された本だが、今年度前半の翻訳書で一押しの一冊だ。彼女の存在に縁ある八月に取り上げられたことを喜びたい。道躰(どうたい)章弘訳。

 ◇Edith Stein=ブロツワフ(現ポーランド領)生まれ。修道女、哲学者。アウシュヴィッツ収容所で殉教。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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