コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史 ウィリアム・ダルリンプル、アニタ・アナンド著…東京創元社

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コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史

『コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史』

著者
ウィリアム・ダルリンプル [著]/アニタ・アナンド [著]/杉田 七重 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784488003913
発売日
2019/05/31
価格
2,970円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史 ウィリアム・ダルリンプル、アニタ・アナンド著…東京創元社

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 呪われたダイヤモンドというと、米国の国立自然史博物館に所蔵されている「ホープダイヤ」が有名である。持ち主を破滅させるという大粒のブルーダイヤだ。

 本書の主役である「コ・イ・ヌール」(光の山という意味)と呼ばれるダイヤモンドは、さしずめその英国版である。ホープダイヤほどの知名度はないが、格式は高い。なにしろこちらは英国王室の王冠に飾られ、現在はロンドン塔に所蔵されている。インドから英国に渡るまでの数百年間、いくつもの国家とその王家・統治者のあいだを転々としながら、行く先々で災いをもたらしたという忌まわしい宝石。その血塗られた歴史の恐ろしさ故に、エリザベス女王はコ・イ・ヌールのついた王冠をかぶろうとしないとか。

 その話、どこまで真実なんだろう?

 転がる宝石には物語がからみつき、虚実一体となって輝きを増してゆく。本書の著者二人は、虚飾や誇張抜きのコ・イ・ヌールの真の歴史を求め、これまで紹介されることのなかったペルシャやムガル帝国時代の資料をひもとき、富と権力の象徴として求められ、やがては恐れられることとなったグレート・ダイヤモンドが発掘された時点からその来歴を綴(つづ)り直そうと試みた。その成果が本書だ。歴史ノンフィクションであり、歴史ミステリーでもある。

 二部構成で、馴染(なじ)みのない人名や地名がぞろぞろ出てくる前半はなかなか歯ごたえがあり、死とロマンの宝石物語を期待してページを繰ると、少々しんどいかもしれない。本書がまさしく徹夜本となるのは第一部も後半、「コ・イ・ヌールを手にした者のなかで、ランジート・シングほどそれを珍重した者はいない」という一文で始まる第五章からだ。物語的に言うなら、コ・イ・ヌールの真の呪いが発動するのもこのページからである。美しい口絵の数々も堪能していただきたい。杉田七重訳。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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