ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー…新潮社/女たちのテロル 岩波書店…ブレイディみかこ著

レビュー

5
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

著者
ブレイディ みかこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103526810
発売日
2019/06/21
価格
1,485円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

女たちのテロル

『女たちのテロル』

著者
ブレイディみかこ [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000613422
発売日
2019/05/31
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー…新潮社/女たちのテロル 岩波書店…ブレイディみかこ著

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 暴力を禁止する側が恒常的暴力の担い手、しかも男であることはよく見られる現象だ。だから、実力行使に訴えるしかないと行動した女たちのことを私たちは非難できない。だって、その告発と戦いの末に私たちの世の中と私たち自身が存在しているのだから。

 競馬場で疾走する国王の馬の前に身を投げ出して絶命した英国の女性参政権運動家エミリー・デイヴィソンや、貧困と虐待の中で「生まれながらに蔑(さげす)まれる人」と「生まれながらに高貴な人」がいる社会に立ち向かい、恩赦による転向と矯正を死によって拒んだ金子文子。『女たちのテロル』は、峻厳(しゅんげん)な歴史の原理を説いた、意外と静謐(せいひつ)な本である。

 もう一冊は、アイルランド人の配偶者との息子が通う英国の「元・底辺中学校」が舞台。子どもたちの世界には暴力と差別が高い純度で噴き出る。それに対し、暴力や差別はだめですというような規範を、差別と暴力で溢(あふ)れる社会の担い手の大人が子どもに教えようとするが、子どもたちはそこに美辞麗句で蓋をしない。なぜなら、差別する子もすでに大人社会の犠牲者であり、偽善の言葉が響かないことを知っているから。

 両親がハンガリー移民の美少年ダニエルの話が好きだ。彼はダンスの振り付けを覚えられない黒人の少女を「ジャングルのモンキー」と呼ぶ。古風なレイシスト発言をやめないダニエルは、子どもたちにいじめられる。彼はムキになって学校を休まない。いじめの連鎖の真っ只(ただ)中で著者の息子がとった行動は、彼とともに休まないことであり、彼と話し続けることだった。「キャラクターの強い友達を持つって、いろいろ大変」。日英の大人から心ない差別の眼差(まなざ)しを浴びつつも、前に駆け出した中学生。少年の心は、真っ直(す)ぐで透明で、驚くほどに温かい。

 ◇ブレイディ・みかこ=1965年、福岡市生まれ。保育士・ライター。英国ブライトン在住。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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