三菱海軍戦闘機設計の真実…杉田親美著

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三菱海軍戦闘機設計の真実

『三菱海軍戦闘機設計の真実』

著者
杉田親美 [著]
出版社
国書刊行会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784336063670
発売日
2019/07/05
価格
3,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

三菱海軍戦闘機設計の真実…杉田親美著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 零戦の設計者というと、ジブリのアニメ映画『風立ちぬ』の主人公にもなった堀越二郎技師が有名だ。が、曽根嘉年(よしとし)技師(1910~2003年)も忘れることはできない。

 曽根は東大工学部卒業後、三菱航空機株式会社に入社。堀越の設計チームのナンバー2として、機体の設計や海軍との調整、部隊での不具合対策に奔走。戦後は三菱自動車工業の社長になった。

 終戦時、軍は資料の焼却を命令したが、曽根はひそかに大量の資料を残した。昭和10年から終戦までの生の記録だ。九六式艦上戦闘機、零戦、雷電、烈風など海軍戦闘機の開発の内幕を伝える。主任設計者の堀越は、戦後、海軍航空参謀などを歴任した奥宮正武と共著『零戦』を上梓(じょうし)し、開発の苦心を回顧した。曽根資料には堀越の本にない新事実も多い。

 零戦の開発は困難を極めた。当時の日本の工業水準では、欧米より低い馬力のエンジンしか作れない。が、軍は高性能の戦闘機を要求した。設計チームは工夫を重ねた。新機軸の設計思想「剛性低下操縦方式」は堀越の記述と違い、既に九六式二号二型艦戦から導入されていた。零戦のフラッター事故の原因となった昇降舵(だ)マスバランスの形状も、海軍と三菱の審議会での「速力、航続力、格闘性能」優先順位論争についての新事実も、曽根資料で明らかになった。

 技術者の「戦後」は「戦前」に始まるのかもしれない。零戦のフラッター事故の原因を調べた山名正夫技師は戦後、全日空機墜落の事故調査でも活躍した。個々の性能でもライバルに負けず、いくつかの項目では優越する、という零戦の設計哲学は、戦後、形を変えて工業製品の「勝利の方程式」となった。著者は一例として、トヨタの新車開発のスローガン「80点プラスアルファ」をあげる。

 文系人間の私には難しい本だが、戦争と平和、技術者と発注者の関係、官民協働への教訓、設計思想の重要性、一次資料を残す意味など、さまざまなことを考えさせられた。

 ◇すぎた・ちかよし=1949年生まれ。防衛省技術研究本部副技術開発官(航空機担当)などを歴任。

読売新聞
2019年8月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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