『ラッコの家』古川真人著

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ラッコの家

『ラッコの家』

著者
古川, 真人, 1988-
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163910864
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

『ラッコの家』古川真人著

[レビュアー] 産経新聞社

 九州地方の海辺を舞台に、陰影に富む人間の記憶の情景を描いてきた新鋭の新作。第161回芥川賞候補に入った表題作では、視界がかすみ、耳も遠くなった80歳近い老女・タツコと、3世代にわたる家族との交流が軸となっている。現在と過去、現実と空想が混ざり合うタツコの意識に兆すのは、遠い海の鯨やイルカの尾の音。その不思議な心の風景は、視力が衰え、さまざまなものが見えなくなっているからこそ感受できる豊かな何かを指し示す。

 方言をふんだんに織り込んだリズミカルで息の長い文章も印象深い表題作のほか、中編「窓」を収録。(文芸春秋・1500円+税)

産経新聞
2019年9月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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