『どうしたらいいかわからない君のための 人生の歩きかた図鑑』
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学校、家庭、お金。子どもが社会に絶望しないための「人生の歩きかた図鑑」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『どうしたらいいかわからない君のための 人生の歩きかた図鑑』(石井光太 著、日本実業出版社)は、10代の子どもたちための人生ガイド。
ご存知の方も多いと思いますが、著者は教育や児童福祉などの現場での取材経験も豊富なノンフィクション作家です。
社会にとって子どもは何物にも代えがたい宝物だ。
日本にはその宝物を守るために、いろんな人、団体、法律がある。 どんななやみであっても、専門家が君を守るために待っていてくれるんだ。
でも、君はそういう人たちがどこにいるかわからないよね。 だれが何をしてくれるのか。 そもそもそこへ行ってどう話をしなければならないのか。 知らないことだらけだと思う。
この本は、そんなふうに思っている君のためのものだ。
だれがどこで君を助ける準備をしていて そこにどうやって連絡をすればいいのか。 彼らの力を借りたら、君はどう変われるのか。 そのことを君に伝えたいんだ。
(「はじめに」より)
「学校」「家庭」「体」「お金」「進路」に関する、さまざまな悩みの解決法をまとめたもの。
きょうはそのなかから、CHAPTER 4「『お金がない』悩み」に焦点を当ててみることにしましょう。
家が貧乏
全国で、貧困家庭は6、7家族に1家族。子どもも6、7人に1人は貧困だといわれています。それどころかシングルマザーの家庭においては、2人に1人が貧困状態にあります。
しかし、ここで注目すべきは、著者が「貧困家庭に生きる子どもたちが『不幸』だとは思っていない」と断言していること。
お金がなくても家族の仲がよかったりすれば、毎日を楽しく過ごすことはできるわけです。とはいえ貧困家庭の子どもが、お金のある家の子どもとくらべ、損をしているのも事実。
そして、困っている子どもをたくさん見てきたからこそ、著者は「貧困は社会の責任なのに、そのせいで子どもが損をするのはバカげている」といいたいのだそうです。
そこで、ここでは貧困家庭の子どもをサポートする仕組みを紹介しているわけです。(196ページより)
子ども食堂
「子ども食堂」という名前を聞いたことがあるかな?
主にNPOがやっていて、町の公民館だとか、学校だとか、施設といったところで定期的に開かれる子どものための無料の食事会だ。どこがやっているかによって、少しずつ場所も活動内容もちがってくる。
探しかたは簡単だ。インターネットで「子ども食堂ネットワーク」というホームページから、地域を選んで探してみてほしい。君の家の近くにある子ども食堂が出てくるはずだ。(198ページ)
子ども食堂の目的は、家でちゃんとしたごはんを食べられない子どもたちに食事を与えること。
お母さんが忙しくて料理ができなかったり、お金がなくて十分な食事を出してあげられない家庭の子どもに、おいしいものを好きなだけ食べさせようという取り組みです。
また同時に、「子どもが家でひとりにならないよう、遊び場をつくる」「(スポーツやイベントなど)家でできないことをやる」「制服やスポーツの道具などのレンタル」「さまざまな悩みに対する相談」などの目的も。
つまり、子ども食堂はごはんを無料で提供するだけでなく、子どもたちの居場所となってくれているということ。
遊び、生活、将来の悩みまでを解決し、地域で子どもたちをサポートしようという場所であるわけです。(198ページより)
無料塾
学習塾に通うには、お金が必要。たとえば中学3年生が1年間通えば、32万円もかかるといわれていますが、もちろん高校の入学金や授業料は別。
しかし、お金がないとしても、塾で勉強できる環境があります。それが無料塾。
無料塾の目的は、二つある。
一つは、勉強を教えること。元学校の先生、塾講師の経験者、あるいは教えることが大好きなおとな。そういう人たちが仕事の合間をぬって、君に勉強を教えてくれるんだ。 テキストも寄付で買っているのでお金はかからない。塾によっては、無料の勉強合宿まである。
二つ目の目的は、居場所をつくること。 まずしい家庭の親は、仕事でいそがしくて家にいないことも多い。そんな家庭の子どもにとって、居場所は必要だ。 無料塾では勉強以外にも、ボランティアがいっしょに遊んでくれたり、相談にのってくれたりする。夜、親が帰ってこなければ、彼らに連絡をすれば助けてくれる。(206ページより)
つまり無料塾は勉強を教えてもらえる場であり、子どもたちの居場所でもあるということです。(205ページより)
奨学金
高校卒業までは国が授業料をサポートしてくれますが、大学、短大、専門学校となれば話は別。
それらの学校へ進学したければお金が必要になるわけですが、入学金、授業料、交通費、生活費、テキスト代などを合わせれば、多くのお金が必要になります。
そこで、お金を用意できない子どものためにあるのが「奨学金」という制度。わかりやすくいえば大学や専門学校へ行くための「借金」。
かかるお金を借りて、卒業後に返すことになるわけです。いろいろな奨学金がありますが、大きく分けると次の3つになります。
(1)第一種奨学金 利息がない。成績や家庭の収入によって受け枯れるかどうかが決まる。
(2)第二種奨学金 家庭の収入が基準以下であればだれでも受けられる。三パーセントまでの利子がかかる。
(3)入学時特別増額貸与奨学金 入学した年に五十万円までのお金を利子付きで借りることができる。
(210~211ページより)
現在は、大学生の約半分がなにかしらの奨学金を受けているといわれていますが、大半の奨学金はタダでもらえるお金ではなく、いつかは返さなければならないので注意が必要。
利子つきの奨学金の場合は、借金の額が増えてしまう可能性もあるので、奨学金を受ける際にはきちんと相談することが大切。
相談先としては、高校の先生や予備校の職員がいいそうです。(209ページより)
このように、生きていくうえでの問題について、わかりやすく解説されているわけです。
ちなみに本書の根底にあるのは、担当編集者の熱意。問題のある家庭に育ったため家に居場所がなく、人間不信気味だったこともあり、学校ではいじめられ不登校になったという過去を持っているのだとか。
そのため、自分のような思いをしている子どもたちに「人生はなんとかなる」「こまりごとを解決する方法はある」と伝えたいという思いから企画されたというのです。
そのせいか、そんな気持ちに共感した著者の、読者に寄り添うような文章にも強い説得力が。
悩みを抱え込んでいる子どもはもちろんのこと、大人にもぜひ読んでいただきたい良書です。
Photo: 印南敦史
Source: 日本実業出版社