小さいけれど大きな意義を持つ「鉄犬ヘテロトピア文学賞」に注目!

レビュー

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小さい場所から生れた大きな良書の発見――鉄犬ヘテロトピア文学賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

「小さな場所、はずれた地点を根拠として書かれた作品であること。場違いな人々に対する温かいまなざしをもつ作品であること。日本語に変わりゆく声を与える意志をもつ作品であること」という精神を刻みこんだ、日本語で書かれている作品ならジャンル不問。それが、知る人ぞ知る鉄犬ヘテロトピア文学賞です。

 二○一四年に第一回受賞作を送り出し、今年で六回目とまだ歴史の浅い文学賞ですが、個性という点では頭抜けているというべきでしょう。なんといっても、目配りの幅広さがすごい。過去の受賞作を見てみると、新人作家のデビュー作や芥川賞の候補に挙がった作品のような、小説好きなら知っているタイトルもありますが、小さな出版社から出た無名の書き手の作品のほうが目立ちます。どうやって見つけたんだろうと、ただただ感心するのみ。

 井鯉こま、温又柔、木村友祐、姜信子、管啓次郎、田中庸介、中村和恵が選考委員を務めた第六回受賞作もまた然り。川瀬慈の『ストリートの精霊たち』。すみません、不勉強なトヨザキはこの本の存在を知りませんでした。

 川瀬さんは著者プロフィールによれば、「人類学、シネマ、現代アートの実践の交差点から、イメージや音を用いた話法を探究する」映像人類学、民族誌映画の研究者。受賞作には、二○○一年に訪れて以来、幾度も足を運んでいるエチオピア北部の都市ゴンダールで出会った大勢の人たちとの交流が描かれています。

 繁華街ピアッサの路上で、口笛芸で金を稼ぐストリート・チルドレン、現地語で「精霊(コレ)」と呼ばれる物乞いの女性、アズマリという楽師集団の少年、娼婦などなど。語り口も特徴的で、一人称、三人称にとどまらず、「君は」と呼びかけてみたり、十字架に語らせてみたりと、たくさんの声が響き合う、私小説のような、詩のような、エッセイのような十七篇が収められているんです。

 たくさんの本の中に埋もれてしまいがちな、小さい場所から生まれた大きな良書を発見してくれる文学賞。小さいけれど大きな意義を持つ、鉄犬ヘテロトピア文学賞に注目してみて下さい。

新潮社 週刊新潮
2019年9月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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