カザアナ 森絵都著

レビュー

4
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カザアナ

『カザアナ』

著者
森絵都 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022516145
発売日
2019/07/05
価格
1,870円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

カザアナ 森絵都著

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

◆近未来日本の閉塞に風穴

 空読(そらよみ)、風読(かぜよみ)、水読(みずよみ)、月読(つきよみ)、草読(くさよみ)、土読(つちよみ)、石読(いしよみ)、影読(かげよみ)、夢読(ゆめよみ)、時読(ときよみ)、虫読(むしよみ)、獣読(けものよみ)、鳥読(とりよみ)。万象を読む異能ゆえに、平安時代末期、平清盛によって迫害された<風穴(かざあな)>と呼ばれる者たち――という空想を八百五十年後の近未来まで飛ばした長篇小説が、森絵都の最新作『カザアナ』だ。

 舞台となるのは東京五輪後、さまざまな要因で生じた八方ふさがりの状態を打破するため打って出た観光革命により、外国臭のするものは排斥し、日本固有の文化と伝統を重んじる<空前のいにしえブーム>が蔓延(まんえん)している日本。どこもかしこも外国人ツーリストが喜びそうな和テイストに塗り替えられ、居住区は景観をそこねないよう徹底管理され、空には市民監視ドローンが飛び、人々の行動は体制に対する貢献度や従順度でカウントされる<参考ナンバー>に支配されている。

 そんな息苦しい日本に生きる十四歳の少女・里宇(りう)が、造園会社カザアナの香瑠(かおる)、テル、鈴虫の三人と出会うところから物語は快調に滑り出す。

 ダンスが大好きで正義感の強い、里宇の十一歳になる弟・早久(さく)。二人の母親で、標準をはるかに下回る参考ナンバーのせいで、日本のメディアから干されている硬派のジャーナリスト・由阿(ゆあ)。この入谷(いりたに)家の三人と、実は風穴の末裔(まつえい)である石読の香瑠、空読のテル、虫読の鈴虫が出会い、親交を深めていく第一話を皮切りに、第四話へと向かって彼らが協力して解決していく事件の規模は大きくなっていくのだ。そこに絡んでくるのが、観光革命を敵視し、人命を奪わないテロを繰り返す謎の組織ヌートリアの暗躍。

 現実にある「ニッポンすごい」言説や政府寄りの報道、環境破壊といった、今ここにある危機を思わせる深刻な設定の数々に、闊達(かったつ)な想像力とユーモラスな語り口で風穴を開けてくれる一級品のエンターテインメント。<この世界は、人間が思ってるほど人間だけのものでもないみたい>、第四話で由阿が発する言葉が胸にしみわたる、自然愛にあふれた心優しい社会派小説として、愛着が抱ける逸品だ。

(朝日新聞出版・1836円)

 1968年生まれ。作家。著書『風に舞いあがるビニールシート』『みかづき』など。

◆もう1冊 

 梨木香歩(なしきかほ)著『椿宿(つばきしゅく)の辺(あた)りに』(朝日新聞出版)

中日新聞 東京新聞
2019年9月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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