「高大接続」を実現した経済学テキスト――【自著を語る】『ゼロからはじめる経済入門』

レビュー

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ゼロからはじめる経済入門

『ゼロからはじめる経済入門』

著者
横浜国立大学経済学部 テキスト・プロジェクトチーム [編集]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784641165427
発売日
2019/05/17
価格
2,530円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「高大接続」を実現した経済学テキスト――【自著を語る】『ゼロからはじめる経済入門』

[レビュアー] 氏川恵次(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授)

1 刊行の経緯

 今年の5月に、本書を無事上梓することができた。書籍編集第2部の長谷川絵里さんや、関係される皆様に、あらためて感謝申し上げる次第である。また、本書は弊学経済学部の教員をはじめ複数の執筆者の手によるものであるが、当初から関わってきた編著者の一人として、執筆の経緯と本書の特長を、以下により明らかにしていくことができればと思う。

 本書の企画については、当方が関わらせて頂いたのは、確か2016年からであったと記憶しているので、ほぼ3年を費やしての出版となった。当初は、既に有斐閣から出版していた、田代洋一・萩原伸次郎・金澤史男編『現代の経済政策』(有斐閣ブックス)の後継としてのテキストを出版することをねらいとしていた。ちなみに同書も、本学経済学部の教員が中心になって出版させて頂いたものであった。

 筆者自身も、同書第3版の編集の時期にちょうど着任し、当時研究科長であった故金澤先生や諸先生の薫陶を受けつつ、冷や汗をかきながら楽しく関わらせて頂いたことを懐かしく覚えている。同書では、グローバル化の中で、日本の経済政策を歴史・国際比較の視点から捉えつつ、第4版(2011年)では、当時の世界金融および経済危機、政権交替、通商政策といった現代の政策緒課題を広く俎上に乗せることを目的としていた。
 他方で、例えば本学経済学部では「ポリティカル・エコノミー入門」「グローバル・エコノミー入門」といった初年次教育の導入科目を設けており、ここでは初学者向けに、多様な経済の実態と社会科学への招待といった内容を扱う必要があった。当初の企画では、ねらいの一つとして、高等学校での社会科教育における地理歴史、公民、とくに現代社会、政治・経済での幅広い学習内容を活かしつつ、大学での経済学をはじめとする社会科学での学びに上手く結びつけるようなテキストが作れないか、と意図していた。

 そこで、当初の企画としては、まず世界および日本経済の実際の歴史をふまえた上で、経済学が本来対象としてきた広い学派(古典派、新古典派、ケインズ経済学派、その他後継学派)の視点をとらえ直す。その上で、日本の多くの高校生が既に学習している、政治経済・現代社会の内容に対し「高大接続」の観点から導入教育の位置づけを行う、というものであった。

 また、対象としては、国公立・私立大学の経済学部やこれに準じる学部一年生以上、さらに留学生向けを想定していた。なお、いささか余談になるが、当初は経済学教育の世界的な展開(例、The CORE Project)も視野に入れ、多様な高年次教育への展開も検討していたが、諸般の事情により断念することとなった。こうした世界での経済学教育への対応とテキストへの反映については今後の課題となるように思われる。

2 多様な視点、高大接続

 本書の目次をご覧いただくと明らかであるが、一般にイメージされる経済学のテキストとは異なり、まずは経済の実態をつぶさに明らかにするものとなっている。一つには、前記の通り、高大接続の観点を意識しており、実際に、高等学校での副読本と大学の専門科目で用いられる各分野のテキストを複数精査し、ちょうど中間レベルの難易度に設定している。また、もちろん、ミクロ経済学、マクロ経済学といった、基本的な科目の基礎も盛り込んであり、読み進めながらそのエッセンスを理解することをねらっている。その際、扱う内容は、執筆者の独断によるものではなく、あくまで高等学校での社会科教育の内容を基礎としたものとした。

 基本的な構成として、1章「現代経済の仕組み」(池島祥文)では、以下の各章で経済の実態を読み解いていく上での必要最低限のフレームワークを示してある。続く2章「世界経済発展の軌跡」(松永友有)、3章「現代日本経済の形成」(邉英治)では、歴史的な視点から、それぞれ世界経済、現代日本経済の成り立ちを明らかにしている。

 さらには、4章「企業と市場」(居城琢)、5章「国際貿易と外国投資」(山崎圭一)、6章「現代経済と金融」(西川輝)、7章「労働市場と労働政策」(村上英吾)、8章「少子高齢化と社会政策」(相馬直子)、9章「社会と財政」(伊集守直)、10章「途上国の経済と社会」(山崎圭一)、11章「環境と経済」(氏川恵次)、の各章で、それぞれ高大接続を意識したテーマに絞り込み、経済の実態やこれに関わる社会制度の仕組みを分かりやすく読ませる内容とするように心がけたものである。そして、終章「経済から経済学へ」(川村哲也)において、以上の章でみてきたような経済の実態を紐解く経済学とは何かについて、より多様な視点に立って解き明かしつつ、各章の内容のさらなる学習についてふれている。

 ここで、本書で定義する経済学とはいかなるものかに関して、簡潔に説明しておくことは有用と考えられる。すなわち、経済学の2つのパラダイム、第1に、アダム・スミスやリカード等古典派経済学者達による「生産パラダイム」あるいは「社会的再生産システム」としての経済把握、第2に、カール・メンガー、レオン・ワルラス、ウィリアム・ジェヴォンズらによるパラダイム転換としての「限界革命」を経た「交換パラダイム」である。最終章では、それぞれのパラダイムの考え方を、市場価格および生産価格という各々の価格理論を例として丁寧に説明している。さらに現在、ミクロ経済学やマクロ経済学、さらにゲーム理論による分析に代表される「交換パラダイム」が標準的となってはいるが、本書の各章で明らかにしてきたような、各分野での資本主義経済をより深く理解するためには、多様な「生産パラダイム」についても学習する必要があることを示している。

3 より理解を深めるために

 前記の通り、ミクロ経済学、マクロ経済学をはじめとする、各種の経済学をより専門的に学習するために、各章ではしかるべき導入を設けている。先ず、「ねらい」や「Keywords」で、各章の基本的かつ押さえておくべき内容を確実に学習することができるようになっている。各章の文章も各節に適切な分量で読みやすくまとめてある。

 また、「Next Step」では、前記のように最終章にも対応しているが、当該する内容を学ぶための経済学の科目について、履修案内がなされている。さらに直後の「文献案内」や関心がある読者には巻末の「引用・参考文献」を活用した、より深い学習へと進むことが可能なように構成されている。

 加えて、本書の特長として、アクティブラーニングに対応した仕組みを設けている。とくに巻末「Final Action!」では、「1 より深く調べて、準備をして、討論する」、「2 グループ・ディスカッション」、「3 現場調査(フィールドワーク)」といった、アクティブラーニングの基本を分かりやすく提示している。並行して、各章では、こうしたアクティブラーニングのいわば例題集である「Action!」が読者のために設けられている。

 このように本書は、大学の初学者向けとして、実際の経済を分かりやすくなかば読み物として読み進めていきながら、読者の問題意識の高まりに応じて、経済学のさらなる専門的な学習に誘うものとなっている。また、大学生以外の広い読者にも読んで頂き、少しでも経済および経済学の関心を持たれるものとなれば執筆者冥利につきる。ぜひ一度お手にとってご一読願えれば幸甚である。

有斐閣 書斎の窓
2019年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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