「韓国・フェミニズム・日本」特集の『文藝』が異例の3刷

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

創刊号以来、異例の3刷、リニューアル 第2弾の『文藝』

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


文藝 2019年秋季号

 今回の対象は文芸誌8月号だが、『文藝』は季刊だから秋号となる。

 今回の目玉はその『文藝』だ。リニューアル第2弾である今号は、発売後すぐに大きな反響を呼び、現在3刷まで重ねている。累計1万4000部と大きな数字ではないものの、文芸誌の重版はそれ自体が異例で事件性を帯びる。『文藝』の場合、2刷は17年前の2002年冬号、3刷は実に86年前、1933年の創刊号以来だという。

 特集タイトルは「韓国・フェミニズム・日本」。軸にあるのは、昨年末に出版された話題作チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』で、こちらも韓国文学としては異例の13万部突破のヒットとなっている。

『キム・ジヨン』の翻訳者である斎藤真理子と翻訳家の鴻巣友季子の対談が特集全体をナビゲートし、日韓織り交ぜた作家の短篇が並べられる。エッセイや論考もある。韓国人作家の作品は、既存作の翻訳ではなく、この特集のために書き下ろしを依頼した新作だそうだ。気合いが入っている。

 成功を祝するにやぶさかではないが、渡部直己のセクハラ事件にほぼ頬被りした業界がどの口でフェミニズム!? という気分も残る。

 芥川賞選評が新聞沙汰になっている。古市憲寿の候補作「百の夜は跳ねて」に対する選考委員たちの酷評ぶり、作品への批判を超えた、作家失格の烙印にすら見える苛烈な評言が衆目を集めたためだ。

 古市作は参考文献に、木村友祐「天空の絵描きたち」(『文學界』12年10月号)をあげていた。小説が未書籍化の最近の小説を参考にするってどういうこと? と不審に思った選考委員らに、「真似や剽窃に当たる訳ではない。(中略)もっと、ずっとずっと巧妙な、何か」(山田詠美)、「ものを創り出そうとする者としての矜持に欠ける行為」(川上弘美)、「盗作とはまた別種のいやらしさ」(吉田修一)、「他者の小説の、最も重要な部分をかっぱい」だ(堀江敏幸)などと非難された。

 古市憎しといえど感情的すぎでは……という声もあったが、古市の向こう、制度的な問題も射程に入れた批判と解するべきだろう。

新潮社 週刊新潮
2019年9月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク