止まった刻 検証・大川小事故 河北新報社報道部著 岩波書店

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止まった刻 検証・大川小事故 河北新報社報道部著 岩波書店

[レビュアー] 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 児童74人が、10人の教員とともに犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の悲劇を追った力作である。

 東日本大震災においても、学校管理下での避難行動中の児童の犠牲は、ほぼ大川小だけであった。

 その時、何があったのか。今日でも全ては解明されていない。遺族ら関係者の心の中で、時が止まったままになっている。

 「大川小の教訓」とは何か。3・11を思い出し続ける全ての人々の心に、重くのしかかる。答えを出す前に、まずは本書を読んでみてほしい。

 読み続けていくうちに、子どもたちが感じただろう恐怖、児童を守れなかった教員の無念、遺族の悲しみと悔しさ、生存者たちが持つ苦悩と気概が、ひしひしと伝わってくる。

 教員では唯一の生存者でありながら、PTSDを発症して姿を見せなくなった「教務主任」の行動にも、メスをいれた。前任校で「教務主任」が中心になって作った精緻(せいち)な避難マニュアルは、多くの命を救ったという。だが前任校の「命の恩人」は、大川小の悲劇を防げなかった。

 なぜだったのか。遺族たちは、問うた。しかし行政の説明は、不十分で、残念な態度も見られた。苛立(いらだ)ちが強まった。行政主導では、何が起こったのかは、検証されない。そこで学校側の責任の明確化を求めた訴訟が始まった。一審では教員の過失が、二審ではマニュアル不備が認定され、遺族の訴えが認められた。ただし、石巻市と宮城県は上告し、現在も最高裁で審理中である。

 生き残った者は、犠牲者を悼みながら、生き続けることの意味を問う。「将来の命が一つでも二つでも失われずに済んだら」と願い、「未来をひらく」ために生き続ける道を探す。

 本書の後半では、ぎりぎりのところで避難に成功した他の学校の事例なども数多く紹介されている。考えさせられる。

 地方新聞社の価値と底力を強く印象づけられる。渾身(こんしん)の新聞協会賞受賞作である。

読売新聞
2019年9月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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