私のカトリック少女時代 メアリー・マッカーシー著 河出書房新社

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私のカトリック少女時代

『私のカトリック少女時代』

著者
メアリー・マッカーシー [著]/若島 正 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784309619972
発売日
2019/04/09
価格
2,640円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

私のカトリック少女時代 メアリー・マッカーシー著 河出書房新社

[レビュアー] 村田沙耶香(作家)

 「信仰」がある環境で育つとはどういうことなのだろう、と想像することがある。私の家は、漠然と神様やご先祖様の話はしても、仏壇はなく、毎日祈ることもなかった。友達から教会へ行くといわれ、それはどんな感じだろう、と想像した。そんな自分を、どこかで自分の「かみさま」が見ている気がしていた。

 『私のカトリック少女時代』は、作家メアリー・マッカーシーが12歳で信仰をなくした自身の少女時代について綴(つづ)ったものを纏(まと)めた回想記である。なんとも不思議な構造をした本だ。冒頭で、これが回想記であることと、「でっちあげたのかどうか、自分でもわからない場合がある」ことが同時に告げられる。最後の一篇(いっぺん)を除き、全ての章の最後に、冷静に分析した彼女自身のコメントが付け加えられている。

 自分の記憶が不確かだったり、無意識の誇張があったりしないか、彼女は恐ろしいほど真摯(しんし)に見張っている。優れた短編小説のような回想記に引きずり込まれては、冷静な分析にひっくり返されたりするわけだが、最初は奇妙に思えたその構造が、記憶の中の現実を保存するとはこういうことなのではないか、と思えてくる。

 彼女はまさに「信仰」がある環境で少女時代を過ごす。冷静な「分析」は少女時代から変わらず、周りの大人の狼狽(ろうばい)や細かな行動を観察する利発な眼差(まなざ)しには爽快な気持ちにさせられる。自己分析も凄(すさ)まじい。何しろ、人気者になろうとして「信仰を失いました」と嘘(うそ)をついた彼女は、神父との対話のあと、「もしかして、私は本当に信仰を失ったのではないか」という恐ろしい考えに行きついてしまうのだ。

 少女は観察者であり、分析者であり、大人になっても自分が紡いだ言葉を解剖し続ける。少女は真実を「信仰」している。そのまったく自分を誤魔化さない、揺るぎない姿勢に、とてつもなく励まされる。自分の「信仰」は一体何なのだろう、と強く考えさせられる。若島正訳。

読売新聞
2019年9月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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