「満洲」に渡った朝鮮人たち 李光平写真・文 世織書房

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「満洲」に渡った朝鮮人たち

『「満洲」に渡った朝鮮人たち』

著者
李光平 [著]
出版社
世織書房
ISBN
9784866860060
発売日
2019/06/20
価格
2,640円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「満洲」に渡った朝鮮人たち 李光平写真・文 世織書房 

[レビュアー] 藤原辰史(農業史研究者)

 著者の李光平(リグァンピョン)は、中国吉林省龍井市の文化館長という要職を早期に辞め、2000年からバイクで3万キロ、車で2万キロ走り、旧満洲国にあたる現中国東北部に住む膨大な数の老人の聞き取りをし、写真を撮ってきた。

 この老人たちはかつて朝鮮半島に住んでいた。朝鮮総督府が、朝鮮との国境にある満洲国間島省に集団的に移住させた人々が聞き取りの中心にある。彼らは、どの国の歴史からも排除されてきた。語り手たちは、寝食を共にして話を聞く李の態度に動かされ、重い口を開き、泣き、笑った。調査資金はどの団体からももらわず、給料を使い尽くした。

 このあたりは金日成(キムイルソン)らが率いる東北抗日聯軍が抵抗闘争を展開していた。移民者は、それに対する防波堤としての役割も期待されたのだ。しかし、総督府の圧政に苦しめられた移住者の一部は、聯軍に食糧や荷物を運搬した。他方で、抗日運動に誘われ、断った人もいる。聯軍が援助を求めに家に来ると、怖くて布団から出られなかったという証言もある。

 朝鮮半島から満洲に移民した朝鮮人に対する日本の軍人の行為も常軌を逸していたと老人たちは回顧する。李が聞いた回想を引用しよう。〈1〉金容真(キムヨンジン)。「日本人教官」が「靴を履いた足で容真の下腹を蹴飛ばし、こぶしで殴り倒した」。抵抗しようと決意した金に「他の日本人教官が容真を強く投げ倒したあと、靴を履いた足で踏みつけた」。〈2〉朴徐雲(パクソウン)。金が稼げるという「人買いの口車に乗せられ」、ソ連との国境にある吉林省の慰安所に連れてこられた。長患いで1日に1人から3人しか相手できず、後に追い出された後、「乞食をしながら」生き抜いた。写真の表情も重く、切ない。

 日本統治下の朝鮮で起こった「三・一独立運動」から今年で100年。日本内地からの満洲移民の体験も想像を絶するが、朝鮮半島からの満洲移民もまた悲劇的だった事実も、心に刻んでおきたい。

読売新聞
2019年9月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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