かつては虫嫌いだった私が……
[レビュアー] 吉野万理子(作家)
十年近く前まで虫が大嫌いでした。その頃の私に、「イモムシがいっぱい出てくる小説を、将来書くことになるよ」と、伝えたら卒倒したかもしれません。
なぜ変わったのかというと、必要に迫られたからです。『虫ロボのぼうけん』という、昆虫が登場する児童書シリーズをうっかり思いついてしまい、ならば昆虫好きの小学生男子よりも詳しくならないとリアルなストーリーは作れないだろうと覚悟を決め、雑木林での虫観察を毎週のノルマにしたのでした。
その結果、虫にハマりました!
まず、探そうとすると意外と見つからないところが面白かったのです。擬態していたり、うまく隠れていたり……。特に酷暑の日はどこに消えてしまうのか、雑木林に二時間いても、まるで見つけられないときもあります。一方、強風の日には、下草にへばりついている蛾を発見できたりして。
やがて昆虫図鑑を買い揃えて、見たことのある虫に付箋を貼るようになると、そのマークが増えることに喜びを感じるようになってしまいました。体系的なことも少しずつわかってきます。たとえばカメムシって、昔は洗濯物などにつくマルカメムシしか知らなかったんですけど、セミもカメムシの仲間だとわかって驚いたり。
そこらの小学生男子なんて相手にならないほど虫通(むしつう)になった私ですが、その知識を上回る昆虫好き編集者さんが光文社にいて、「イモムシがいっぱい出てくる小説? 最高ですね! ぜひ書いてください」と言ってくれたのでした。
そんなわけで、この本には虫を嫌う女子中学生と、イモムシをこよなく愛するシニア世代の女性が登場します。どちらも自分の分身なのです。
虫好きの人も、虫は苦手! という人も、手に取っていただけたらと思います。