『手のひらの楽園』
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エステ科に通う女子高生の眩しい青春
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
専門高等学校とは、卒業した段階でスペシャリストとなるべく専門科目を履修できる教育課程がある高校だ。商業、工業、農業などの専門高等学校が一般的だが、本書の長崎県大野村市にある私立夕陽ノ丘高校には看護科、調理科、保育科、パティシエ科、そして園部友麻が通うエステティック科がある。
友麻は高校二年。フェリーとバスを乗り継いで3時間以上かかる松乃島という小島の出身で、奨学金をもらいながら寮生活を送っている。今日は年に一度の部屋替えだ。
新しく同室になったのは看護科二年の平原こづえ。親の事情で新規入寮してきたと管理人の山本美智子が教えてくれた。だがこづえはなかなかの気難しや。友麻とろくに目も合わせてくれない。
友麻の父親は早くに亡くなったと聞かされている。母は女手ひとつで育ててくれたが、友麻の進学とほぼ同時に島から消えた。学費はきちんと払われているので、どこかで元気にしているのだろう。
松乃島出身の同級生は、みんな生まれたときから知りあい。母子家庭のせいか、大人たちに可愛がられて育った友麻は島が大好きだ。
なぜ母が失踪したのか。どうして自分は母子家庭なのか。こづえがほかの生徒に身構えるのはなぜなのか。思春期に続々とわいてくる謎と矛盾点に苦しみながら、友麻は少しずつ世間の残酷さを知ることになる。
四六時中生活を共にする寮の中では、性格や本音を隠しきれるわけがない。その上逃げ場がない。エステ科はほとんど裸で授業をするからお互いの体のことも知っている。恋もいつの間にかやってきて心を惑わせる。ぜんぶをひっくるめて青春だ。キラキラと眩しい物語である。