あの伝説のバンドもいない!? 名盤ランキングの格差や偏向
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
好きなもののオールタイム・ベストを考えると、自分の好みにどっぷり浸れて楽しい。しかしこのランキングはちょっと違う。ここには著者の主観が少しも入っていないからだ。
川崎大助『教養としてのロック名盤ベスト100』は、ポップミュージックの本場アメリカ・イギリスの権威ある「ベスト500」リストを材料に、あまたのアルバムに「機械的に」点をつけて作成したランキング。当然、違和感のあるリストになっている。「なぜ!?」という衝撃が繰り返しおそってくる。
たとえば、このベスト100にはカニエ・ウェストもAC/DCも入っているが、プレスリーもイーグルスもU2もレッチリも不在だ。ここでは伏せておくが、なんと、あの伝説のバンドもいないのである!
また、女性の作品は全体の一割にも届かない。よいアルバムをたくさん出していると票が割れてどれもランク外に落ちたりするが、それにしたってマドンナもビョークもいないとは。
この本の見どころは、ランキングそのものではない。著者が読者の先頭に立ち、このランキングへの違和感を述べる部分こそが主役である。民主主義的手続きを排除した採点方法だからこそあらわになった「格差」や「偏向」。そこに「男根主義的バーバリズムの世界」が見えてくる。著者は、米英から遠く離れた場所で客観的・批評的に彼らの音楽を聴くことができる日本人が果たすべき役割を考えているのだ。志が高い。