試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想 上・下 ヤン=ヴェルナー・ミュラー著 岩波書店

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試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想(上)

『試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想(上)』

著者
ヤン=ヴェルナー・ミュラー [著]/板橋 拓己 [監修]/田口 晃 [監修]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784000613514
発売日
2019/07/27
価格
2,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想(下)

『試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想(下)』

著者
ヤン=ヴェルナー・ミュラー [著]/板橋 拓己 [監修]/田口 晃 [監修]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784000613521
発売日
2019/07/27
価格
2,860円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

試される民主主義 20世紀ヨーロッパの政治思想 上・下 ヤン=ヴェルナー・ミュラー著 岩波書店

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 題名の「試される民主主義」は、デモクラシーのお試しという意味ではない。むしろ「論争する民主主義」ととらえた方が近いだろう。「民主主義の時代」(これが本書のドイツ語版の題名である)と呼ばれる二十世紀のヨーロッパ諸国では、多くの政治家や思想家が、ともにデモクラシーを標語として掲げていた。

 しかし一つの理想を共有する調和状態が続いていたわけではない。むしろ、民主主義の意味をめぐる見解の相違が、現実政治における対立と直結する。そうした論争を伴いながら、デモクラシーは今日まで生きのびている。

 著者、ミュラーは二〇一六年に出版した『ポピュリズムとは何か』で、先進国の現代政治に見られる病弊を鋭く批判したことで知られる、ドイツ生まれの政治思想史家。ポピュリストの政治運動は、さまざまな立場が争いながら共存するデモクラシーの条件を、掘り崩すがゆえに危険である。そうした見解の基盤となっている政治思想史の理解が、よくわかる通史である。

 第二次世界大戦ののち、英国を除いた西欧諸国で幅広く共有されたのは、ソ連・東欧の「人民民主主義」に対抗して、キリスト教の道徳性と結びつき、民意と市場の暴走を防ぐ「制約された民主主義」のコンセンサスだったという指摘が興味ぶかい。それは一九六八年の学生反乱と、その後の市場原理主義の潮流によって、正当性を疑問にさらされることになった。だが冷戦の終了後には東欧にも薄く広がりながら、何とか生き続けているとミュラーは論じる。

 同じようなことは、日本の「戦後民主主義」のコンセンサスについても言えるだろう。やはり理性的な市民という道徳上の理想に支えられながら普及し、七〇年代以後に輝きを失った。もともと民主主義とは不確実なものであり、だからこそ擁護する価値があるとするミュラーの姿勢は、いまの日本を考えるためにも大事な示唆を含んでいる。板橋拓己、田口晃監訳。

<原題>Contesting Democracy: Political Ideas in Twentieth‐Century Europe

読売新聞
2019年9月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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