<東北の本棚>原発事故後の福島詠む

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<東北の本棚>原発事故後の福島詠む

[レビュアー] 河北新報


句集「天地」 嶺岸さとし[著]

 名取市に住む著者は1949年生まれ、「海原」同人。「素(す)の会」「飛行船俳句会」「む句会」にも所属し、現代俳句協会会員、宮城県俳句協会会員。本書が第一句集で、句集名の天地は「あめつち」と読み、創作を始めてから10年で詠んだ320句を収めた。
 著者にとって、この10年で最大の出来事は、あとがきで述べるように、東日本大震災と福島の原発事故だった。原発事故には、それまで富岡、浪江、双葉各町などによく訪れ、地域の人々と交流があったことから、衝撃を覚えたという。
 <津波あと錆びし鉄路に鼓草><震災一年百姓不撓耕せり>。震災後、大地に息づく命や農民のたくましさを改めて実感しつつ、<「夜の森」の花盛りゆく防護服><被曝地へハイエナのごと泡立草>と、放射能汚染された土地の悲しみを言葉に込めた。
 「稚拙な俳句で深刻な事態に対峙(たいじ)できるはずもなかったが、何とか句に詠もうともがいた」と振り返り、特に、福島の姿には<フクシマの宙の手触り猫柳><被曝地の農魂トマト赤く熟る>と目を向け続ける。
 高校の教師を定年退職後、家の周りの畑で土に親しむという著者。<たんぽぽや端農(はしたのう)身の丈に合う>には、ありのままの自分を追い求めようとする人生哲学が感じられる。
 文学の森03(5292)9188=2263円。

河北新報
2019年9月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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