【『図書室』(岸政彦著)刊行&『劇場』(又吉直樹著)文庫化記念対談 前篇】表現するって恥ずかしい

対談・鼎談

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図書室

『図書室』

著者
岸, 政彦
出版社
新潮社
ISBN
9784103507222
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

劇場

『劇場』

著者
又吉, 直樹, 1980-
出版社
新潮社
ISBN
9784101006512
価格
539円(税込)

書籍情報:openBD

【『図書室』(岸政彦著)刊行&『劇場』(又吉直樹著)文庫化記念対談前篇】表現するって恥ずかしい

[文] 新潮社


岸政彦さんと又吉直樹さん(写真:新潮社写真部)

沖縄や生活史が専門の社会学者であり、最近は小説も好評を博する岸政彦さんと、芸人としての活躍はもちろん、小説家としても『火花』『劇場』と話題作を刊行してきた又吉直樹さん。神楽坂la kaguで行われたお二人の対談を二号にわたりおとどけします。

 ***

岸 『劇場』が文庫になりましたが、映画化も決まったんですね。

又吉 山崎賢人さんと松岡茉優さんが出演して、来年公開の予定です。

岸 原作者としてカメオ出演とかなさるんですか。

又吉 いえ、まったくお声がかからなかったです(笑)。僕が出ても邪魔になるでしょうし。

岸 『劇場』、読ませていただいて最初におっと思ったのが、飲み会で主人公の永田がほかの劇団員ともめる場面で、劇団員の辻という男の描写があって、〈地味な男だったが、特徴のある高い声をしていて、どうしようもなく目立つ時があり、よく芝居の邪魔になった〉。こういうテクニカルな描写が僕はすごく好きなんです。プロの芸人さんとしてコントや漫才を作ってこられて、こういう風に人を見ているんだって思いました。批評的な視点が随所にある。だから今日は緊張しています。僕もそうやって見られてるんだろうなって。

又吉 (笑)そんな風には見ないですよ。

岸 「声でかくて発言量多いけど、一つ一つはあまり面白くない」とか(笑)。量でねじ伏せるタイプなんです(笑)。

又吉 人前に出てコントとかやっていると、僕を知ってくれているお客さんの前だと、例えば野球少年の格好をしていても「あ、又吉が演じているんだ」って理解してくれるんですが、昔まだテレビとか出てなくて知られていない頃にそのネタをやったら、前列のお客さんが「えっ……」と言った(笑)。なんかおっさんが少年の格好して出てきたって思われてしまって。次第に、ああこれは演じているんだって思ってくれましたが。最初に言った「邪魔」っていうのはそういうことです。

岸 コンテクストを共有していない時って、キャラというか、声の高低のような物理的なパラメーターがもろに出ちゃいますよね。以前、上野千鶴子さんとトークイベントをやったのですが、ウェブで「デイリーポータルZ」というサイトの編集長をやっている知人の林雄司さんが来てくれて、リアルな鳩の頭のマスクを二つお土産にくれました。アメリカで売ってる全然可愛くないやつ。それを楽屋で見た上野さんが「被って出ましょうよ」。

又吉 (笑)

岸 絶対あかん、大怪我しますよって僕は止めたんですが、上野さんは「東京の客なんかちょろいわよ」って……でもトークのテーマは社会学にまつわる真面目なもので、お客もそれを期待して来ているわけです。上野さんが登壇するんだし。そこに、一切説明抜きに、二人でマスクを被って、僕が上野千鶴子の手を引いて舞台袖から出てきたんですが、人生で一番スベりました。

又吉 お客さんも、どう受け取ったらいいのか分からないだろうし。本物の社会学が始まったのかな、みたいな(笑)。

岸 あれはマイノリティの象徴なんじゃないか(笑)。

又吉 それは回収しなかったんですか。こんなにスベるとは思いませんでした! とか。

岸 もうそれも無理で、だからすごく真面目な話から入りました。「社会学って何なんでしょうね」とか(笑)。最後まで説明せずに終わった。

又吉 むちゃくちゃ怖いじゃないですか。もう、毎回被って押し通すしかないですよね。

岸 これが社会学なんやで、って。

写真:新潮社写真部

新潮社 波
2019年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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