ないないづくしの里山学校 岡本央著 家の光協会

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ないないづくしの里山学校

『ないないづくしの里山学校』

著者
岡本央 [著]
出版社
家の光協会
ISBN
9784259547707
発売日
2019/08/21
価格
1,540円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ないないづくしの里山学校 岡本央著 家の光協会

[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)

 緑をバックに建つ一体のブロンズ像、と思いきや、それは頭のてっぺんから泥んこになった少年の姿だった。千葉県の木更津社会館保育園が運営する里山学校での一場面。本書は、10年に亘(わた)りこの場に通う写真家によるフォト・ルポルタージュだ。多くの魅力的な写真と共に、当保育園園長・宮崎栄樹さんが貫いてきた里山保育の哲学が紹介される。

 関心がなければ、やり過ごしてしまいがちだが、この数年里山教育がちょっとしたブームのようだ。自然とのふれあいを謳(うた)うイベント的な里山学校も多い中、当園長は先駆者的存在。明確な理念を持ち、全責任を全うする覚悟で徹底的に自然と対峙(たいじ)させる。タイトル通り「ないないづくし」というところに意味がある。

 こちらの里山では、年長組・5歳児が本園から徒歩1時間かけて通い年間約50日を過ごす他、小学生に向けた土曜学校が開かれている。ゲームもテレビもお店も教科書も時間割も通知表もなくお母さんもやってこない。土曜学校では、基本的に田んぼで収穫した米を焚(た)き火で飯盒炊爨(はんごうすいさん)。トイレはくみ取り式。ここでは、何をしてもいいし、何もしなくてもいい。

 親離れが始まる9歳までに、自発的に生きる感覚を刻み、何かをしたいという意欲や情熱を生む核の部分を育てるのだ。「怒るな」「けんかするな」とも言われない里山で、時には友達とぶつかり合いながら、子ども達(たち)は五感を研ぎ澄ましていく。

 <感情をしっかりと鍛えることは言葉を鍛えることにもなるし、実は無意識を鍛えることにもなる。パニックになると明確な判断ができなくなりますから、無意識が、前に出ろ、止まれ、逃げろ、と働いてくれないと困るわけです>

 パニックになったとしても、決して茫然(ぼうぜん)自失にならず、自分を、また他人を守る行動ができるような人間を育てる。里山学校には、現代社会を生き抜く戦略がつまっている。

読売新聞
2019年9月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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