連続殺人鬼を追い詰めた女性ノンフィクション作家執念の1冊

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

黄金州の殺人鬼

『黄金州の殺人鬼』

出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750516141
発売日
2019/09/28
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小説よりも“複雑怪奇”なり 連続殺人鬼を追い詰めた女性作家

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 1976年6月から86年5月まで、カリフォルニア州の各地で50人以上をレイプし、少なくとも13人を殺害、100件以上の強盗を行ったシリアルキラーがいた。犯行現場があまりに広範であったため、その地区ごとに「EAR(イーストエリアの強姦魔)」「バイセイリア・ランサッカー」「オリジナル・ナイトストーカー」などの別称で呼ばれて恐れられた。

 2001年、現場に残された体液のDNA検査によって「EAR」と「オリジナル・ナイトストーカー」は同一人物だと確定。だがその後、犯人の行方は杳として知れなかった。

 著者のミシェル・マクナマラは未解決のこの事件に興味を持ち、10年以上取材を続け執筆を開始した。各地の捜査員と懇意になり、現場を訪れ、犯人が奪った金品の行方を追った。「黄金州の殺人鬼(ゴールデン・ステート・キラー)」と名付けたのも彼女だ。まさに執念の一冊である。

 犯人は周到でかつ大胆だった。長い時間をかけて獲物を狙い定めた。夫婦やカップルの就寝中を襲い、女性に男性を紐で拘束させたのち彼女を別室で強姦した。子供には手を出さず、時に犯行後に涙を流した。その場にある鈍器で撲殺し、痕跡を隠そうとはしなかった。何度か捕らえるチャンスをすり抜け逃げおおせた。

 しかしどんなに恐ろしい犯罪でも人は忘れる。ミシェルがこの事件をブログや雑誌に発表しはじめるまで、ほとんど忘れられていた。

 だが彼女は違った。俳優の夫が出演する映画のパーティでも、子供を寝かした直後でも、新しいアイデアがでればすぐパソコンに向かった。

 第一章はそれぞれの事件の詳細である。事件現場の再現は息を飲むほどの迫力で迫ってくる。

 第二章はミシェルが見聞きした調査の積み重ねだ。調査協力者とともに犯人のプロファイルを行っていく。

 残念なことにミシェルは本書を書きあげることなく2016年、就寝中に心臓疾患で急死した。

 第三章は残された膨大な資料を精査した、夫と調査協力者たちによって書き上げられ、彼女の死後、1年8カ月経って本書は上梓された。しかしその時でも、犯人は捕まっていなかったのだ。

 犯人逮捕の報は、本書を宣伝するためのトークショウが終わった直後だったという。30年以上逃げ続けた男は元警察官であった。

 犯人逮捕の決め手はDNA検査の進歩であったが、ミシェルが追い詰めた犯人像は、ほかの作家が検証してくれるだろう。読み比べができる日が待ち遠しい。

新潮社 週刊新潮
2019年10月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク