嫌中本蔓延の中、偏りのない「彼の国」全史を俯瞰する良書

レビュー

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世界史とつなげて学ぶ 中国全史

『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』

著者
岡本 隆司 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784492062128
発売日
2019/07/05
価格
1,760円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「嫌中本」蔓延の中、偏りのない “彼の国”全史を俯瞰する良書

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 残念なことに嫌中本は世に溢れているが、アカデミズムに基づき中国史全体を俯瞰できる読み易い本が今まで無かった。

 本書は、専門家が素人を相手にナラティブな中国史のプレゼンをして、それを文字におこして書籍化したものだ。

 我々が学校で学んできた歴史は西洋史を基準とする歴史観の影響を受けている。どんな地域であれ、同じ人類であれば同じように思考し行動するという前提では中国史は理解できない。

 本書はユーラシア大陸の地勢や気候から始まり、農耕民と遊牧民の交易に触れながら、世界史との連携を取りつつ中国史の独自性を解説してゆく。

 教科書のように細かい王朝の名称や定番の歴史上の人物のエピソードなどに固執はしない。3世紀頃から始まる地球の寒冷化とそれによって引き起こされた民族の移動などを、大きな歴史の流れの把握に重点をおいて説明してゆく。

 明朝による「朝貢一元体制」、これまで「朝貢」は中国王朝歴代の制度であるかと信じていたが誤解していたようだ。また銀や塩との兌換を基準とした元朝の紙幣制度に対して、あえて紙幣を不換とした明朝の金融制度は新鮮な知識であった。

 明朝の南北格差、江南デルタの綿産地化、民間による社会の貨幣経済化、世界の銀が中国に集中する様は、西洋史の視点とはまさに真逆、中国の旺盛な需要こそが銀を呼び込んだとする。

 そして明朝以降に進展した「官民の乖離」という指標、官僚・政府機構のサイズはそのままに民間の規模だけが拡大していく。これがわかれば清朝末期の軍閥による群雄割拠も、農村本位を前面に押し出した中華人民共和国の基本理念も理解しやすい。

 現代の中国を知るには、最低限の中国史の知識が必要だ。特に忙がしい方にこの本を強くお奨めする。

新潮社 週刊新潮
2019年10月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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