『銀河帝国は必要か?』
書籍情報:openBD
銀河帝国は必要か? ロボットと人類の未来
[レビュアー] 小飼弾
好き嫌いに限らずかじっておかねばならぬ作品というものは、どのジャンルにも付きまとうものだ。選者は紫式部もシェイクスピアも大っ嫌いだがそれでも主な作品のあらすじぐらいは知ってしまっている。今やSFというジャンルはそれを知らずして文学を語れないものとまでなった一方、何がSFで何がそうでないかの争いが絶えることはない。
「彼方のアストラ」はSFか? 「銀河英雄伝説」はSFか? 「スター・ウォーズ」はSFか……この不毛な争いを避けるもっとも冴えたやり方は、好き嫌いは分かれても満場一致でSFである作品をかじっておくことだろう。アイザック・アシモフはまさにそういう作家で、SFを語る上でロボットとファウンデーションを避けて通ることは難しい。
しかし作家存命中半世紀にわたって書かれ続け、病没後も続編が書かれた大作を全読破する必要はあるのか? 現代日本人は幸いである。『銀河帝国は必要か?』(稲葉振一郎)という新書一冊で、ロボット三原則も心理歴史学も過不足なく摂取できるのだから。本書が現時点における最も優れた要約であるのは、著者がファンでないことが最も寄与している。なぜ著者曰く「文学的にもエンターテインメントとしても、六〇年代以降の大きな革新に基本的には乗り遅れた作家」であるアシモフを避けては通れないのか。それがわかればなぜ現代の文学においてSFを避けて通れないか腑に落ちるはずだ。